225.タワー(不二乾)
「おおっ。英二、力持ちだね」
「ちょっ、不二、動くなって!」
 楽しそうな声に、俺はデータノートを丸めてポケットに突っ込むと、部室の窓から外を見た。その光景に、慌てて外に出る。
「不二っ」
「あ。乾!見て見て、高いでしょう」
 勢いよく部室から出てきた俺を見つけると、不二は英二の頭から手を離し、大きくてを振った。
「だから動くなって……わっ!」
「危ないっ」
 不二が仰向けに倒れる。俺は急いで駆け寄ると、何とかその上半身を抱き止めた。
「だい、じょうぶか?」
「ナイスキャッチ」
 顔を覗き込んだ俺に、不二は眼を合わせるとクスクスと微笑った。英二の肩から足を外し、地に付ける。
「英二、やっぱり力ないんだね」
「不二が動くからだよっ、もう」
 俺に上半身を預けたまま言う不二に、英二は頬を膨らせて言った。その後で、俺と不二を交互に見る。
「あーあ。疲れちった。俺、部室でちょっと休んでっから、手塚来たら教えてくんない?」
「うん。いいよ」
 にっこり微笑って手を振る不二に同じように手を振り返すと、英二は部室に入り、開けっ放しだったドアを丁寧に閉めた。
「英二、力はないけど、気はきくよね」
「?」
「こういうことだよ」
 ニッと微笑うと、不二は俺の首に腕を回して触れるだけのキスをした。そのことに驚いて、思わず不二を支えていた手を離してしまう。
「おっと」
 だが、不二は俺の首にしっかりと腕を回していたお蔭で、背中を地面に打ち付けることはなかった。かわりに、俺の背が思い切り丸まったが。
「……何を、してたんだ?」
「んー。マスゲーム」
 ちゃんとひとりで立つと、不二は服に寄った皺を直しながら言った。よし、と呟いて、俺の顔を覗き込む。
「小学校の頃、やらなかった?肩車して、その足を今度は肩車してるひとの膝に乗せて、仙人掌を作るの」
「ああ、そう言えばやったな。だがそれを何故今?」
「何となく、やってみよっかって話しになったの。そうだ!乾が僕を肩車してよ」
「は?」
「どうせ乾はいっつも下だったんでしょ?それに、英二より乾の方が背が高いから。見晴らしもいいだろうし」
 楽しそうに言うと、不二は俺の腕を取って曲げさせた。出来た力こぶに触り、それに力持ちだし、と微笑う。
「ね。いいでしょ?」
 顔を覗きこみ、強請るようにして言う不二に、俺は何も言えなくなってしまった。どうも、不二には反抗できない。
「……落ちても、知らないぞ?」
 赤くなった顔を隠すように、眼鏡を直しながら言う。ソレを見抜いたのか、不二は俺の手を掴むと、引き摺り下ろした。
「大丈夫。今、パワーを充填してあげるから」
 ニッと微笑う。その笑顔に嫌な予感が走ったが、それはすでに遅く。俺は不二に深い口づけをされていた。
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