226.虹(不二切)
「さむっ」
 温もりを求めてベッドの中央へと寄る。けど、そこには温もりがなくて。驚いてオレは目を覚ました。体を起こす。
「……不二サン?」
「おはよう、赤也」
 開け放たれた窓に向かって立っている不二サンは、オレを振り返らずに言った。いつもなら、振り返って、おはようのキスをしてくれるのに。
「寒いんスけど」
「うん…もうちょっとだから」
 上の空な返事。しょうがねぇからオレは毛布を体に捲きつけると、ベッドから降りた。ずるずると毛布を引き摺りながら、不二サンの隣に並ぶ。
「何してんすか?」
「写真撮影」
「見慣れた景色なんか撮って楽しいんすか?」
「虹がね、出てるんだ」
 オレの言葉には答えてくれるものの、全然オレを見ようとしない。オレは、へぇ、と適当な相づちを打つと、また毛布を引き摺ってベッドへと戻った。毛布以外のものもしっかり体に捲きつける。
「不二サンは、オレより虹の方がいいんスね」
「うん」
 自分で言ったことなのに、不二サンに肯定されてオレはかなりヘコんだ。それに気づいたのか、不二サンが窓の外を見たままクスクスと笑った。
「赤也はいつでも会えるけど、虹はそうはいかないからね」
「…虹なんて、簡単に作れるじゃないっスか。何なら、今からオレがホースで不二サンの庭に水撒いてきましょうか?」
「ロマンないなぁ」
「オレがロマンなんて語ったら気持ち悪ぃっスよ」
「あー。そうだね」
「…………」
 またあっさり肯定されて。オレはガックリとうな垂れた。また、不二サンの笑い声が聞こえる。
「凹むんなら、そういうこと言わないの」
 言うと、不二サンは窓を閉め、ブラインドまで閉じた。愛用のカメラを机に置き、ベッドに座る。
「あはは。朝からは何もしないよ」
 思わず身構えてしまったことを見抜いた不二サンは、布団から辛うじて出ているオレの頭を優しく撫でると、微笑った。
「…虹は、もういいんスか?」
「うん。写真は撮ったしね」
「でも、まだ消えてないんスよね?」
「消えてないけど…消えてないから、見るのを止めたんだよ」
「?」
 頭にはてなを浮かべたオレに、不二サンは苦笑した。オレの体に捲きついている布団を剥がし、潜り込んで来る。温かいと思ってた不二サンの体は、ずっと外の風を浴びてたせいか、冷たくて。オレは思わず身をひいた。けど、不二サンが追って来て。オレはあっさり不二さんに捕まってしまった。
「消える瞬間なんて、淋しいじゃない。綺麗なものは綺麗なままにして置きたいんだよ。それが愚かな事だとしてもね」
「……オレのことは穢したクセに」
「君は元々綺麗じゃないから。問題外だよ」
「……………」
「だから言たでしょ?凹むんなら、そういうこと言わないの」
 困ったお莫迦さんだね、君は。呟いて微笑うと、不二サンは膨れたオレの頬にキスをした。
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