227.停電(不二幸)
 カードを差し込み、チャンネルを合わせる。見ると、どこも台風情報ばかりだった。無意味な雨合羽を身につけ、無意味な傘を差したキャスターがなにやら喋っているが、画面から聞こえてくる風の音と、窓の外で聞こえる風の音が混ざって聞こえない。どうせならと俺は消音ボタンを押すと、ベッドに横になった。画面に映っている空と、窓から見える空を見比べる。
 この天気じゃ、来れないだろう。
 窓の外に溜息を吐き、画面に視線を戻す。相変わらずキャスターは必死に何かを叫んでいた。それにしても。そんな所で話す意味は何処にあるのか。
 考えても仕方のないことだ。
 溜息を吐くと、俺はテレビの電源を消し、カードを抜いた。
 途端、部屋の電気が、切れた。
 停電か?
 気になって俺はベッドから降りると、窓の外を見た。けれど、街灯は一つも消えていなかった。自家発電に切り替わったのだろうかと思ったが、その先の街の明かりもついているし、街灯に電力を使うくらいなら院内の明かりを先につけるはずなので、それは違うのだろう。
「停電だと思った?」
「っ!?」
 突然聞こえた声に驚いて振り返る。暗がりの中でも分かる青い眼は、俺と目が合うとゆっくりと細まった。
「不二。……来て、いたのか」
「部活がない時は出来るだけ来て欲しいって言ったのは幸村だよ」
「それはそうだけど」
 窓際に居る俺の隣に並ぶと、雫が垂れている傘を立てかけた。びしょ濡れになった前髪を、掻き揚げる。
「まさか、走って?」
「違うよ。バスで来たんだけどさ。バス停からここまでの間に濡れたんだ。雨より風が酷くてね。傘、裏返りそうだったよ」
 何故か楽しそうに言うと、不二は俺の手に触れた。温かい、と呟く。
「……で。何故電気を消した?」
「君が台風のなか、ひとりじゃ淋しいと思ってさ」
「それがどうして電気を消すことと――」
「こういうこと、電気つけたまましたいの?」
「…………ここは、病院だ」
「でも、初めてじゃないでしょう?」
 クスリと微笑うと、不二はもう一度冷たい唇を押し付けてきた。不二の髪から滴る雫が、俺の首筋を伝う。
「……つめ、たい」
「そっか。これじゃ幸村が風邪ひいちゃうね」
 風邪を引く虞があるのは不二なのに。不二は苦笑しながら言うと、俺から手を離した。その手を、追う。
「幸村?」
「風邪、引くから。温まらないと」
 不二の手に指を絡めて言うと、俺はその冷たい唇を温めるようなキスをした。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送