229.ステーション(不二真)
「……わざわざ駅で待たなくても」
 改札で、出てくる人たちを威嚇するかのように仁王立ちで待っている真田の元につくなり、不二は言った。手を仰向けにして、真田の隣に置く。
 すると、まるでそれが当たり前であるかのように、真田は自分の手をそこに乗せた。強く握り合い、歩きだす。
「だからさ。もう、君の家までの道は覚えたから」
 人通りが少なくなってきたころ、不二が突然、思い出したように言った。何のことだと真田が目で問う。
「駅で待ってないでいいって言ってるの」
「……何故だ?」
「だから。君の家までの道はもう覚えたし。それに」
 なんか、威嚇されているような印象を受けるし。思いながらも、不二はそれを言葉にせず、ね、と同意を求めるように言った。
 改札から出てきた不二に気がつき目が合えば、真田は威嚇の表情から優しいそれに変わる。だが、真田は不二が相当近づかない限り、見つけることが出来ず。そのため、どうしても不二は真田の威嚇するような眼を見ることになる。
 真剣に僕を捜してくれようとするのは嬉しいんだけど。見つけられないんじゃ、ちょっと困ったもんだ。真田のその鋭い眼を見るたび、不二はそう思っては苦笑した。
「だから。ね。家で、待っててよ。あ、コートでもいいよ。場所、もう覚えたから」
「断る」
 間髪置かずに出た言葉に、今度は不二が、何故、と聞き返した。真田は、仕方がないなと言った風な溜息を吐くと、不二を見つめた。
「俺は時間の無駄が嫌いだ。だから、断る」
「……よく、分からないんだけど」
「不二が駅から俺の家に来るまで、不二は歩くことしか出来ないし、俺はそれを待つことしか出来ない。それは時間の無駄にならんか?」
 言って同意を求める視線を不二に送るが、不二はまだ首をかしげていた。その顔に、仕方がないとまた溜息を吐くと、真田は繋いだ手を不二と自分の視線の間に挟んだ。
「こうして駅から家まで一緒に歩いた方が、余程有意義だとは思わんか?」
 真っ直ぐに言う真田に、不二は苦笑すると、無言だけどね、と答えた。手を下ろし、強く、握り締める。
「例え無言でも、離れているよりは一緒に居る方がいい。そうだろう?」
「……そうだね」
 手を強く握られたことで微かに頬を赤くしながら、それでも相変わらず真っ直ぐに言う真田に、不二は頷くと優しく微笑った。
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