230.階段(不二リョ)
 絞首刑、死刑台への階段。それを上がるのと同じ気持ちだ。
 ただそれは、十三段なんて短くなくて。もっと、もっと長い道のり。
「どうしたの?」
 少し前を行く先輩が、まだ一段目に足をかけたままの俺を振り返る。
「別に」
 顔を上げずに呟くと、俺は一歩だけ踏み出した。それを見た先輩が、軽い足取りで先に上がりきる。
 死刑囚の気持ち。それにきっと近い。恐怖はあるけれど、その先に、やっと解放されるという喜びがある。先輩と一緒に居ることの出来ない、監獄のような生活から解放される、喜びが。
 ただ、違うところがあるとすれば。俺はそのなんとも言えない緊張感のようなものを、何度も味わうことが出来る。ということ。それも、自ら望んで。
「リョーマ。早くおいでよ」
 階上から、執行人の声がする。
「……アンタになら、殺されてもいいっスよ」
 笑顔で俺を待っているであろう先輩に向かって、でも自分でも聞き取れないくらいの声で呟くと、俺はゆっくりと階段を上り始めた。
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