236.カモフラージュ(周裕) |
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「ねぇ。いいでしょ?」 部屋に入ってくるなり、兄貴はオレを床に組み敷いて囁いた。そのまま深く口付けてこようとするから、オレは顔を左右に振ってそれを阻止した。 「駄目だっ。姉貴とか、いるだろ!?」 「大丈夫。これ、持ってきたから」 「?」 オレから右手だけ離すと、兄貴は何処に隠し持ってたのか、四角いものを取り出した。焦点を、合わせる。 「っ、それ」 「ふふ。これをかけながらならさ、裕太の声だってきっと紛れちゃうよ」 そう、意味深に微笑う兄貴が持ってたのは、AVだった。しかも。 「裕太、これがお気に入りなんだってね。だーね君から聞いたよ。非道いなぁ。呼んでくれれば、飛んでいったのに」 唖然としてるオレに、だからいいでしょう、と微笑うと、兄貴は手を伸ばして乱暴にシャツを左右に引いた。千切れたボタンが、微かな音を立てて床に転がる。 「ちょっ、兄貴」 「ほらほら、暴れちゃ駄目だよ。声は平気かもしれないけど、流石に振動までは誤魔化せないって」 「だから、まだ――」 ビデオセットしてねぇだろ?言おうとしたが、それは突然聞こえてきた姉貴の声に遮られた。 「周助、裕太、うるさいわよ」 カチャ、と小さな音を立ててドアが開く。 「うっ」 ヤバイ、と思った瞬間、ドッと音がして兄貴の持っていたビデオがオレの腹に落ちた。 「……あんた達、何やってるの?」 「いやっ、あの、これは――」 「裕太がさ、僕が部屋に入ったら何か隠したから。なんだろうって思って。余りに必死で隠すものだからさ」 顔を強張らせた姉貴と焦るオレの間で、兄貴だけが冷静だった。一瞬だけ、オレに目を合わせると、兄貴はニヤリと微笑った。 「……で。裕太が隠してたものは何だったの?」 「あの、ね」 そのままの表情で姉貴を向いたのかと思ったけど。次の瞬間、兄貴は顔を赤らめると、オレの腹に落としていたビデオを摘み上げた。 「これ、なんだけど」 ……って。え?もしかして、オレがやばい? 嫌な予感がして姉貴を見る。姉貴はなんともいえない表情で、ビデオとオレを交互に見ていた。裕太、とオレの名前を溜息混じりに呼ぶ。怒られるのか? 「そう。あんたも男の子だもんね。わざわざうちに帰って見るのはどうかと思うけど。まぁ、仕方ないわね」 オレの予想とは反対に、姉貴は僅かに笑みを見せながら言った。その後で、兄貴に視線を移す。 「そうだ。ついでだから周助、それ、裕太と一緒に観たら?」 「え?僕が?」 「そうよ。幾ら潔癖って言っても、もう中3なんだから。これくらい観てなきゃ」 姉貴が、何を言ってるのか分からなかった。なに?潔癖って、誰のことだ?ってか、兄貴は何で頬を赤らめてんだ? 「……でも、母さんが…」 「大丈夫。内緒にしといてあげるから。そうだ、あと…10分くらい待ってくれる?そうしたら、アタシが母さんを外に連れ出してあげる。そうすれば、ボリュームを下げたりしなくても観れるでしょう?」 「う、うん」 「ね。いいわね。10分、待ってて」 思いついたら即実行型の姉貴は、言うなりドアを閉めると、母さんの居るリビングに向かって階段を駆け下りて行った。 「………だってさ」 唖然としているオレの上から、微笑いを含んだ兄貴の声がする。見上げると、兄貴はいつもの顔でオレを見つめていた。 どうやら兄貴は、顔色まで自在に変えられるらしい。 「これ、必要なくなっちゃったみたいだね」 クスリと微笑い、キスをしてくる。 「ってか、誰が潔癖なんだよ」 オレはその額を押しやると、兄貴を睨みつけた。けど、それは笑顔であっさりとかわされてしまった。 「ふふ。潔癖だよ、僕は。だって裕太一筋だからね」 「嘘吐くなよっ、だったら何でそんなに手馴れて…」 「愛ゆえに、ってね」 クスリと微笑うと、兄貴は中途半端に肌蹴ていたオレの肌に、直に触れてきた。 「待て兄貴っ。まだ、姉貴たちが――」 「ここ、あざになりそうだね。そうだ。ビデオが落ちてきてついたあざだってわからないように、僕がキスマークで隠してあげるよ」 「っ。逆だろ、普通。って、おい、兄貴、聞いて…」 |
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