242.裏切り(不二リョ+裕)
「!」
 インターフォンを押そうとした時、すぐ隣で嫌いなヤツの声がしたから。こっそりとリビングの見える庭に回りこんだまでは良かったんだけど。
 草木に隠れて覗き込んだ俺の目に映ったのは最悪な光景だった。
 ってか、何でキスなんて…。兄弟で。しかも、姉もいるってのに。俺たちのことは隠してるのに。弟クンとのことは姉も公認?何だよ、それ。
 怒りで、ぐ、と手を握る。と、小さく音をたてて枝が何本か折れてしまった。悪いな、とは思ったけど。元はといえば、あのヒトが悪いわけで。
 窓の向こうでは周助と弟クンと由美子サンの三人で仲良くラズベリーパイを食べている。俺が食べるはずだったラズベリーパイを…。
 ムカついて。周助を、じ、と睨みつける。と、視線を感じて、俺はそのすぐ隣を見た。俺と目が合ったことを確認するように、そいつは、ニッ、と勝ち誇った笑みを浮かべた。
 ムカつく。
 逃げるのも癪だから、俺は、キッ、とそいつを睨み返した。けど。そのときには既に、そいつは周助の方を見てより一層楽しげな笑みを浮かべていた。見ていたくなくて。俺は気づかれないよう、庭を出た。
 外壁に、脱力したように寄りかかる。
 こんな敗北感、初めてだ。しかも、こんな裏切り…。
 なんなんだよ。見せつけたかったのか?今まで散々俺が弟クンに見せつけてたのは、実はそんなに乗り気じゃ無かったって?調子に乗ってた俺を二人で嘲笑ってたとか?なんなんだよ。良くわかんないよ。
「周助の、バカ…」
 ポツリ、と呟く。いつもなら、誰が莫迦だって?って言葉が返ってくるのに。今回は返って来ない。もしかしたら、もう二度と返って来ないかもしんない。
「周助のバ――」
「二回も言わなくても、分かってるから」
 突然耳元で聞こえた声。驚いて振り向くと、唇を重ねられた。ラズベリーパイの、味。
「……弟クンとの間接キスなんて、嫌なんスけど」
 唇を離し呟くと、俺は自分の口元を何度も拭った。
「何のこと?」
「とぼけないで下さいよ!俺が来るの知ってて呼んだんでしょ?俺が見てるの知っててあんなこと…」
 俯いて言う俺の頭上から、優しい溜息が聞こえてきた。それと同時に、頭に、優しい重み。
「違うよ。裕太を呼んだのは姉さんで、あれは裕太の頬にパイの欠片がついてたから取ってあげてたの」
「………やっぱ、俺が来てるの知ってたんじゃん」
 欠片とるだけなら、そんなに顔を近づける必要なんて無いし。ってか、それを教えて自分で取らせればいいし。
「ごめんね。ちょっと、リョーマに意地悪したくなっちゃってさ。たまにはヤキモチもいいでしょう?」
 顔を上げた俺に悪戯っぽく微笑うと、周助はもう一度、すっごく優しいキスをした。


「……俺の分のラズベリーパイ、ある?」
「勿論。もう、部屋に用意してあるよ。一緒に食べよう」
「二人っきりで?」
「勿論、二人っきりで」
「弟クンは?」
「また、見せつけたいの?」
「…………ヤダ」
「ん?」
「アンタは俺のもんだから。もう、誰にも見せない」

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