244.本日開店(不二リョ) ※365題『241.発見』の続き
「本日開店」
「は?」
 頭にはてなを浮かべた俺に、先輩は、ジャーン、と効果音をつけるとクローゼットを全開にした。
「ほら、だって君、僕のクローゼットを見たいって言ってたっじゃない」
 クスリと微笑い、呆気に取られている俺に正気を取り戻させるようにキスをする。
 そう言えば。そんなこと言ってたかもしんない。
 記憶を辿ること、一週間。
 先輩のクローゼットから如何わしいファイル、というか、俺のエロ写真の入ったファイルを見つけて。それについてはもう決着がついてるんだけど。あの時、もっと他に何かあるんじゃないかって思って。先輩にクローゼットを見せるように言ったんだった。
 確か、今は駄目、って言ってたけ。開店準備中だから、なんてワケのわかんないことも。
 その間に何か隠すんじゃ?とも思ったけど。先輩の部屋にはクローゼット以外にこれと言った収納スペースは無いし。隣の弟くんの部屋に隠そうと思えば隠せるけど。先輩の性格からして、大切なものを隠す為とはいえ自分から遠くに離したりはしない。
 何か企んでることは、何となく分かったけど。そんな理由で、俺はとりあえず納得してたんだった。
 ってか。自分で言い出したのに、忘れるなんて。
「で。僕のクローゼットオープン記念として、先着一名サマに、無料でこのクローゼットの中のモノを一つプレゼントいたします」
「は?」
 突然明るい声で言うと、先輩は俺の手をひいた。どうぞどうぞ、なんてへつらうような声色。その言い方に、思わず微笑ってしまった。
 けど。その笑顔は、次に出てきた先輩の言葉に、凍りついた。
「必ず一つ、クローゼットの中のモノを持って帰ってもらいます。返品も処分も不可です」
 笑顔でさらっと恐ろしいことを言う。何が恐ろしいって。だって。開けられたクローゼットにはレコードや書籍の姿はなくて。大量のファイルばかりが入ってたから。
「……俺、自分の写真なんていらないっスけど」
「だったら、こちらなんていかがでしょう」
 あくまで営業口調。でも、その笑みは絶対零度。どうもこの危機を上手く乗り切る手はなさそうだ。
 諦めて溜息を吐いていると、先輩はクローゼットの奥から、初めて見るファイルを持ってきた。俺の手に、ずっしりとしたそれが置かれる。
「……俺の写真じゃないっスよね?」
「貴方なら、絶対気に入るはずですよ」
 自信満々に言う。俺が気に入るってことは。もしかしたら猫の写真?なんて。少しでも都合のいい解釈をしたのが間違いだった。
「何、これ」
「ふふ。リョーマが独りで淋しいときに使うように、作ったの。どう?」
「どうって…」
 ばさばさとファイルを捲る。そのどのページも先輩でいっぱいだった。しかも、なんて言うか、俺を攻め立てているときに取ったとしか思えない顔なんかもあって。
「い、いらないっスよ。こんなもん」
 写真と目が合い、思わず顔が赤くなるから。俺は急いでソレを閉じると、先輩の胸に押し付けた。そう残念、と余り残念そうでもなく先輩が溜息を吐く。
「じゃあ、他のファイル持ってく?残りは全部リョーマしか映ってないけど」
「……本当に、もって帰らないと駄目っスか?」
「そうですねぇ。持って行って貰わないと困りますねぇ」
 営業口調と営業スマイル。つっても、その笑みは、ほら、また。絶対零度ってやつ。思わず、寒気が走る。でも、そのお蔭で、頬の赤みは消えたみたいだった。タイミングがいいんだか、悪いんだか。
「まぁ、どうしても嫌だというのなら、他の人の手に渡ることになりますが」
「……どれが?」
「僕の写真の入ったファイルが。裕太あたり、喜びそうだな…」
「……っ」
「だって、要らないんでしょう?僕もこんなの持ってても仕方ないし」
 どうする?と意地悪にも訊いてくる。そんな風に言われたら、俺が受け取るしかないってこと、分かってるクセに。
「あ。要らない。じゃあ、これは裕太行き――」
 ずっと俺が黙っていたから。先輩はおどけたような声を出すと、ファイルを俺から遠ざけようとした。慌てて、それに手を伸ばす。
「ちょっと、待って下さいよ」
「あれ?要らないんじゃなかったの?」
「……貰っときますよ。仕方ないっスから」
 先輩の手から、無理矢理ファイルを奪い取る。と、俺の手の中で開いてしまったファイルのページには、俺の一番好きな表情をしている先輩の写真があった。思わず、顔が赤くなる。
「とかなんとか言っちゃって。帰って早速使うつもりなんじゃない?」
「そうしたら、アンタはもう用済みっスね」
「別に。それなら僕も、リョーマの写真を使うまでだけどね」
「っ。……いじわる」
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