245.ふるさと(不二跡)
「……どうしたの、これ」
 目の前に並べられた食物に、僕は自分の眼を疑った。
「お前が俺様を馬鹿にしやがるからだ」
 家庭科の授業で作らされたのだと思われるエプロンを外しながら、彼は少しだけ胸を張って言った。俺だって、ふるさとの味、お袋の味ってやつくらい知ってるんだぜ、と。自慢げに言う。
 いや、別に。自慢することじゃないし。などとは思っても、決して口に出してはいけない。凄いね、という意味をこめた相槌を打つだけだ。
「食べても?」
「その為に作ったんだ」
「そっか。そうだね。じゃ、いただきます」
 彼が作ったのは所謂肉じゃが。普段和食なんて滅多に口にしないというから、じゃあ、お袋の味とか分からないんだね、と僕が言ったことを気にしていたらしい。別に、莫迦にしてたわけじゃないんだけど。彼としては、僕が知っているのに自分が知らないものがあると言うことが嫌だったのだろう。
 そういえば。なんでも同じにしたがるのは、女性的な考え方だと、どこかで聞いたことがある。
「ど、どうだ?」
 一口食べただけで、そんなことを考えていたから。彼は不味かったのではないかと、少し不安になったようだった。いつもは自信満々の彼も、このことに関しては少しだけ不安はあるようだ。
 頬杖をついて、僕を、じ、と見つめる。僕の言葉を待つその姿が可愛らしくて、僕は思わず微笑った。
「うん。美味しいよ」
「……当然だ」
 嬉しいくせに。安堵の表情を浮かべながらも、いつもの口調で返す彼に、僕はまた微笑った。もう少しそのままで居て欲しかったけど。僕の言葉に安心した彼は、もう頬杖をつくことはしなかった。
 まぁでもいいか。仕切りなおすように、息を吐く。
「何だ?」
 俺様が居るのに溜息か?そんな言葉が聞こえてきそうな顔で僕を覗き込んでくるから。
「っ」
 その顎を掴むと、僕は触れるだけのキスをした。顔を真っ赤に染めた彼が、僕の視界に広がる。
「食事中は止めろ。味がうつる」
「ああ、ごめん。つい…」
「つい、じゃねぇ」
 赤い顔のまま、何度も口元を拭う。嫌なのは分かったけど。そこまでされると、なんだか傷つくから。少し、意地の悪い言葉を吐いてみたくなった。と言っても、僕の本心を言うだけなんだけど。
「……何、見てやがんだ」
 じ、と見つめる僕の視線に気づいた彼は、腕を下ろすと聞いてきた。流石に、顔を覗き込むようにはしてこなかったけど。まぁ、いいや。
 箸を置き、肘を立てて手を組む。その上に顎を乗せると、僕は彼を見つめ、そして微笑った。
「いや、こうしてるとさ、新婚みたいだなって」
「………っ。ひとりで食ってろ、馬鹿」
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