247.モンスターハウス(周裕)
 ベッドに横になって本を読んでると、カチャ、と音がして、ドアが開いた。
「……にーちゃん」
「うん。いいよ。おいで」
 枕を抱えて、眠そうに眼をこすっている弟に、僕は笑い出しそうになるのを我慢しながら頷いた。
 枕を端っこに避けると、裕太が空いた所に自分の枕を置いた。僕を見て、照れたみたいに微笑う。
「へへ…」
「全く。甘えん坊だね、裕太は」
 布団に潜り込んで手を伸ばしてくる裕太に、僕は困ってない声で、いつまでもこうだとちょっと困るよ、と言うと、その手を繋いだ。ぎゅ、と強く握り締める。
「オレが寝不足になるよりはいいだろ」
「まぁ、そうだけどね」
 怒ってない声で、怒ったようにいう裕太に、僕は微笑いながら頷いた。体を近づけて、密着させる。
 部屋数があるからって、僕と裕太は早くから別々の部屋になった。僕はそれでもよかったんだけど裕太が怖がりだから、最初のうちは大変だった。電気を点けてなきゃ眠れないとか。そういう風に。
 まぁ、今は大丈夫みたいだけど。
 でも、今でも大丈夫じゃないのが、怖いテレビを観たとき。そう言うとき、裕太は一人じゃ眠れないらしい。一人で部屋にいると、その怖いモノに見えるんだとかなんだとか。
 今日観たのはお化けじゃなくて怪物の出てくる話。だから、裕太にとって今日の家は、お化け屋敷ならぬ怪物屋敷と同じ。
 自分以外が全て怪物なんだって。
 この間幽霊の出てくる映画を観たとき、裕太の様子を見にこっそり部屋を開けた姉さんをお化けと間違えて泣き叫んだのにはビックリしたけど。
「電気、消してくれる?」
「う、うん」
 裕太の目が閉じてきたから、眠っちゃう前に、僕は頼んだ。目一杯に腕を伸ばして、紐を引っ張る。
「小さいの、つけてても良いだろ?」
「しょうがないな」
 僕はいつも、真っ暗にして眠っている。そうしないと眠れないってわけじゃないけど。何となく。だから、豆電球は点けてても眠れる。
「あんがと」
 小さな声で言うと、裕太は繋いだ手を、ぎゅ、と強く握ってきた。僕にピッタリとくっついて目を閉じる。いつもなら、怖いテレビを観てなくても、そんなに早く眠れない方なのに。僕と一緒だと、ほら、もう裕太は眠ってしまった。
「ふふ」
 安心しきった裕太の寝顔を見てると、嬉しくて、僕は微笑ってしまった。僕も、裕太がそうしたように、裕太の体にピッタリと自分の体をくっつけて、目を瞑る。
「裕太、温かい…」
 普通、怖いテレビとか見て眠れなくなったら、母さんとか父さんの所に行くと思うけど。裕太はいっつも僕のところに来てくれる。一コしか年が違わないのに。同じキョウダイなら、年の離れてる姉さんの方が、きっと頼りがいがあるのに。でもそれが、それだから、凄く嬉しいんだ。
「おやすみ、裕太」
 自分にも聞こえないくらいの声で、裕太に言う。でも、それはちゃんと裕太に聞こえたみたいで。
「ぅみ」
 ちゃんとした言葉にはなってないけど。裕太は僕にちゃんと、おやすみ、を言ってくれた。
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