248.背伸び(不二幸) ※365題『179.つま先』の続き
「ねぇ、たまにはさ」
 病院の階段。駆け上がり、俺よりも高い位置に立つと、不二は振り返って言った。
「幸村のほうからキスしてよ」
「ここで、か?」
「そうだよ」
 逆光で、目を細めて見上げる俺に、不二は微笑った。君だっていつも唐突に言うじゃない、と。そう言われると、俺は反論できない。
「それに。少しは君の気持ちも分かるかもしれないしね」
「……俺の、気持ち?」
「そう。気の利かない、甘えん坊の幸村精市くんの気持ち」
 クスクスと微笑うと、不二は二段ほど下り、俺より一段だけ高い位置に立った。いつもとは反対の、身長差。屈まないで俺に、ね、とせがむ不二に、俺は思い出した。
 前に、不二に自分からキスをせがむのに屈まないのかと聞かれたことを。あの時、俺は秘密と言ったが…。
「ね、いいでしょう?それとも、人にはやらせるくせに、自分は嫌なの?そんな嫌なことを君は僕にやらせてるの?」
「……分かった」
 はぁ、と溜息をつく。そんな俺とは反対に、不二は嬉しそうに微笑った。
 緊張、する。けど、仕方がない。俺は不二の肩を掴み、背伸びをすると、その唇に触れるだけのキスをした。
 踵をつけ、不二を見上げる。
「それで。俺の気持ちとやらは分かったのか?」
「ん。分からなかったからもう一回。なんては言わないけどさ」
 顔が、赤くなってることがバレているのだろう。不二は俺を見ると、クスクスと微笑いながら言った。一段下り、俺と同じ段に立つ。
「幸村の気持ちはよく分からなかったけど。一つだけ、分かったことがあるよ」
「……何だ?」
「あのね」
 言うと、不二の手が、俺の肩を掴んだ。顔が近づき、唇が触れる。踵をつけると、不二は微笑った。
「僕はキスをされるよりはするほうが好きだってこと」
 まぁ、たまに君にキスをせがんで、そういう顔を見るのもいいんだけどね。赤くなった俺の顔を見つめながら、不二は微笑った。
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