ぜってー、無茶苦茶だって。幾ら青学(うち)が個性が強すぎてダブルスが弱いからって。何も竜崎先生もこんなペアを作らなくても…。 「菊丸、何してる。早くコートに入れ」 「ほいほーい」 手塚に促され、俺は大石の待つコートに立った。向かいには妙にやる気のある不二と、妙にやる気のないおチビ。 「安心して、英二。本気は出さないからさ」 はぁ、と俺が吐いた溜息を勘違いして受け取った不二は、微笑いながら言った。そうじゃないのに。 「本気出してくれても構わないよん。どーせ、おチビと不二じゃ、ろくなダブルスにならにゃいんだから」 「ふふ…」 「こら、英二!」 不二は微笑ってるのに。大石に怒られた。まぁいいや。とりあえず、試合すれば分かるし。 「ほいじゃ、はじめるよん。不二、負けた方、やきそばパンだかんね」 「望むところ」「ってー。ぜってー嘘だ」 ボードを見ると、4-5。負けてるのは俺たち黄金ペア。ナンで?って思うくらい、不二とおチビは息がピッタリだった。まさに、阿吽の呼吸。 やっぱり、あの噂は本当だった? 不二とおチビが出来てるって噂。でもそれは桃が珍しく落ち込んだときに皆に言いふらしてただけで。他の人は誰もそんなこと言ってない。それに。 「はい、越前くん」 「別に。喉なんて乾いてないし」 なんて素っ気無いやりとり。それに、この試合、おチビは妙に無愛想で。不二とやるのが嫌なのかにゃ、なんて思ったりしたんだけど。 あーっ。もう、よくわかんにゃい! 「菊丸先輩。さっきから、何見てんスか」 「……おチビって、ダブルス出来たんだにゃーって。いつ勉強したん?」 「してないっスよ、勉強なんて。大石先輩じゃあるまいし」 「じゃあ、桃との相性が悪かったってこと?」 「違うよ、英二。僕との相性が良いってことだよ」 俺とおチビの視線を遮るようにして立つと、不二はおチビの顎を掴んだ。持ってたスポーツドリンクを口に含んで。そんでって…。 「に゛ゃっ!?」 ざわ、と辺りの視線が二人に集まる。暫く見てると、遥か後方で、桃の叫ぶ声が聞こえた。それはどんどん遠くなってって。桃の声が聞こえなくなった頃、不二はおチビから顔を放した。 「水分補給はしっかりしとかないと駄目だよ?」 「分かってるっスよ、そんなこと」 微笑う不二に、おチビは照れたみたいに顔を赤くするだけで、大して嫌がった素振りは見せなかった。 って、ことは。あの噂は…。 「何?英二」 「い、いや…。さっきのはにゃんだったのかにゃー、なんて」 「何って。僕たちなり意思伝達だよ。さて、リョーマ。次のセットも頑張ろう」 「先輩、またリョーマって…」 「ああ。ごめん、ごめん」 気がつくと、おチビは無愛想な顔に戻っていた。不二からスポーツドリンクを貰い、豪快に飲んだ。 「どーでもいいけど。次のセット、出来ないんじゃないっスか?」 つまらなそうに呟いたおチビが指差す。 「あ」 その方向を見た俺は、血の気が引いていった。 「っお前ら全員、グラウンド50周だ!」
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