253.堕ちる(不二跡)
「ふ」
 唇を離すと、彼は微笑った。満足げに僕を見つめ、また、キスをする。
 堕ちた、とでも思っているのだろう。
 人の弱みに付け込むことを嫌う彼が、そうまでして僕を欲しがるなんて。少し、意外だ。
「好きだ」
 囁いて、体を後ろに倒す。僕を見上げるその眼は、相変わらず見下ろすようなそれだった。思わず笑い出しそうになるのを堪え、彼の額に唇を落とす。
 果たして、堕ちたのはどちらなのか。見上げているのは、どちらなのか。
 手を滑らせ、直に彼の肌に触れると、その頬に赤味がさした。そう言えば手塚にもそんな時期があったけな、と微笑う。
「なに、微笑ってやがる」
「跡部は可愛いな、と思ってね」
 本当は、そこに居ない手塚の姿を重ねてたのだけれど。もう少し、この遊びを続けたいから。僕は真実を隠すことにした。
 もう少し、このフリを続けよう。手塚の居ない淋しさを埋める為の暇つぶしとしては、丁度良い。
「好きだ」
「うん…」
 頷く僕に、彼はまた満足そうに微笑うけど。気づいてる?僕は君に、まだ一度も、好き、とは言ってないんだよ。
「もう、離さねぇ」
 離れない、の間違いでしょう?心の中で呟いて、微笑う。そんな僕には気づかないから、彼は素直に微笑みを返した。その純粋さが、少しだけ愛しいと思う。けど…。
 本当に堕ちてしまったのは、一体どっちなんだろうね。
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