254.サラダ(不二跡)※『245.ふるさと』の続き
「〜♪」
 鼻歌混じりに来ると、彼は僕の前に皿を置いた。そこに盛られているのは、ただ切っただけの野菜。
「跡部。これ、何?」
「何って、見てわかんねぇか?サラダだよ、サラダ」
 肘まで捲くっていた袖を下ろし、エプロンを外すと、彼は少々誇らしげに言った。その姿が可愛いから、ああ、なんて頷いたんだけど。
 余り、胸を張って言うものではないよな、なんて。しかも、別の料理を作れるようになったから食いに来いって、呼び寄せるほどの程でも…。
「これ、シェフに教えてもらったの?」
 マヨネーズのついた林檎を一口齧ってみる。それは不器用な兎の形をしていた。
「違う。歌ってたから」
「は?」
「しらねぇのか?」
 頭にはてなを浮かべ訊き返す僕に、彼は呆れたように言うとさっきまでの鼻歌をまた歌いだした。今度は歌詞がちゃんと聞き取れるように。
 歌いながら、僕を見る。だから僕は、その歌を聴きながら、サラダを食べた。
「〜♪な」
 歌い終え、満足げに彼が訊いてくるの。何を訊いているのかいまいち分からなかったけど。その顔を崩したくないから、僕は頷いた。
 そしてその歌詞の通り、僕は彼の作ってくれたサラダを全部平らげた。美味しかったよ、と言葉を添えて。
「当然だ。何せ、俺様が作ったんだからな」
 また、偉そうに言う。でもそれは嬉しさを隠す為だって分かってるから。僕は、ありがとう、とさらに言葉を加えた。
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