255.リング(不二幸)
「だからそろそろ、さ」
 一緒に暮らさないか、と言われた。渋っていたら、抱き締められ、キスをされた。勢いに押され体が倒れる。俺の上にのしかかった不二は、ニッと微笑った。
「だって、変だろ。男2人で暮らすなんて」
「別に、今だってこうして半同棲みたいなことしていろんなことしてるんだから。今更じゃない?」
「確かに、そうかもしれないが」
「それに、家賃だって勿体無いよ」
 高校を卒業して、互いに独り暮らし。アパートが近いから、殆んど毎日、どちらかのアパートで二人で過ごしている。
「それも、そうかもしれないが」
 だが。何故か二人暮らしという響きが、俺を躊躇させた。時々独りで不二を思って淋しくなる。そう言う思いがこの関係を長引かせているような気もした。
「ねぇ。家賃浮かせてサ、お金、溜めようよ。僕、欲しいものがあるんだ。きっと君も欲しいものだと思うよ」
 僕の上から降り、隣に寝そべると、不二は頬杖をついて俺を見た。俺も、うつ伏せになり、同じように頬杖をつく。
「……何?」
「結婚指輪」
「…………え?」
 頭にはてなを浮かべた俺に、不二はニッと微笑うと、頬杖を左手を取った。その薬指に、唇を落とす。
「な、何言ってるんだ。俺たちは結婚なんて出来ないのに」
「出来なくてもさ。欲しいじゃない」
「だが、結婚できなければ、結婚指輪とは――」
 俺の言葉を塞ぐように、キスをされる。唇を離すと、何処から出したのか、不二は俺に一枚の紙を見せた。
「……これ、は?」
「見ての通り。婚姻届」
「だが…」
「出さなくてもいいよ。書いておくだけで。何となく、結婚した気分になれそうな気がしない?」
 ふふと微笑い、またキスをしてくる。その無邪気さに、俺は溜息を吐いた。諦め、と言うよりは、気持ちを入れ替える意味で。
「まぁ、離婚してもバツはつかないからいいかもしれないな」
「そうだね。って、そこを拾うの?」
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