256.洗濯(不二跡)
「だからね、斜めの方が――」
「しらねぇよ、そんなこと」
 熱弁する僕にうんざりした口調で言うと、彼は距離を開けた。体を倒し、僕の膝の上に頭を乗せる。
「知らないってさ、跡部。君がどう違うのかって訊いてきたんでしょう?」
「てめぇがそこまで熱く語るなんて思ってなかったんだよ。ったく。俺様にはそんなに熱くならないくせによ」
 呟いて、僕を睨みつける。怒ってるのだろうけど。その頬は赤くて。僕は思わず微笑ってしまった。
「微笑うんじゃねぇよ」
「じゃあ、ムスっとしてた方がいい?」
「………好きにしろ」
「ん。なら、微笑ってるよ」
 呆れたように言う彼に、僕は言うと、また微笑った。彼の髪を梳くようにして、顔にかかっている髪を退かす。
「それとさ。僕だって、君のこと、熱く語るときあるんだよ?」
「嘘言え。俺様はそんなの訊いたことねぇぜ」
「当たり前じゃない。君の前で跡部景吾を語ってどうするの」
「……じゃあ、何処で語ってんだよ」
「そうだなぁ。どこでっていうか、君を好きな忍足とか、僕を好きな手塚とかの前で、かなぁ」
 その光景を思い出しながら言う。見ると、彼がさらに呆れたような顔になっていた。
「何?変な顔して」
「案外、残酷なんだな」
「今更。僕はね、跡部以外には幾らでも残酷になれるんだよ」
 膝を折り彼の顔を近づけると、僕は背を丸めて触れるだけのキスをした。ニッと微笑う。けど、彼は見事に大きな溜息を吐いてくれた。
「俺様にだって、残酷なことしてるじゃねぇのよ」
「そう?そんなつもりはないんだけど。もし君がそう感じてるなら、ちょっとショックだなぁ。それも一種の愛情表現なのに」
「ふん。勝手に言ってろ。バーカ」
 クスクスと微笑う僕に、彼は満更でもない顔で悪態を吐くと、腕を回しキスをしてきた。
 そのまま、僕を誘おうとするから。
「そうそう。それでね、あの話の続きなんだけど――」
 少し高い調子で言うと、僕は膝を元に戻し背筋も伸ばして、彼の顔を遠ざけた。
「………俺様以外には、残酷だぁ?」
 不満そうに、彼が呟く。
「だから、愛情表現だって。君だって、将来僕の嫁になるんだから、洗濯くらい出来ないと駄目でしょう。折角興味もったんだからさ」
「興味なんてもってねぇよ。ただ今朝、テレビでやってただけだ。それに、なんで俺様が家事しなきゃなんねぇんだよ」
「……ふふ」
「?」
「いや、僕の嫁になることは否定しないんだなって思ってね」
「…言ってろ、バーカ」


後日。
「……で。なんで部屋に洗濯機があるの?」
「てめぇがあんまりしつこく言うから、買ってやったんだよ」
「ふぅん」
「……何、考えてやがる?」
「いや。わざわざ使用人に頼まずに洗濯できるなら、色々ベタベタになっても平気だなぁ、って思ってさ」
「……一つ言っておくが」
「うん?」
「俺様は、使い方しらねぇぞ」
「だから、これから憶えるんでしょう?僕の為に」
「…………さぁ。どうだかな」

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送