257.掃除(不二切)
「へぇ。そんなに嫌がるからどれだけ汚いのかと思ったけど。結構綺麗じゃない」
「いやいや。不二サンのところに比べれば、全然汚いっスよ」
「それにしてもさ、赤也。どうしたの?頬。また真田に殴られた?」
「ちょっと、まぁ、色々とありまして」
 焦るオレに、不二サンは一瞬だけ鋭い眼をしたが、またすぐにいつもの笑顔に戻った。ベッドに遠慮なく座る。普段はうるさいとしか感じないその軋みが、妙に嬉しく思えた。
 オレはその向かいがわに滅多に使わない椅子を反対向きに置くと、そこに跨るようにして腰を降ろした。正面から、不二サンを見つめる。背もたれに肘を乗せ頬杖をつくと、頬に張ってある絆創膏に触れ、痛んだ。
「うん。綺麗、綺麗」
 オレの部屋を見回し、感心したように呟く。嬉しい反面、当たり前だともオレは思った。
 そう、これで汚いなんて言われたら。頬の傷が無駄になる。
 姉ちゃんに、大掃除?と言われながらも大急ぎで片付けて。どうにもならなかったものは、とりあえず姉ちゃんの部屋に押し込んだ。そん時、姉ちゃんの部屋のテレビのリモコンを落とした上に踏んじゃって。殴られた。それが、この頬の傷だ。
 滅多に綺麗にしない部屋を掃除するのに、頬の傷と、多分リモコンは弁償することになりそうだから、そのお代。決して安くは無いけど。不二サンに嫌われない為だと思えば、高くは無い。
 ただ、一つ。気になることがあんだよな。とりあえず部屋を綺麗にした姉ちゃんが言ってた言葉。それでいいの?って。自分の首を絞めることになるって。どういう意味なんだか。
「ねぇ、赤也」
「何スか?」
 呼ばれて思考を戻すと、不二サンは笑顔でオレを手招いていた。オレは素直に椅子からおり、その隣に座った。肩を掴んで体を倒される。
「僕、赤也の部屋、結構気に入っちゃったかも。こんなに綺麗なんだしさ。これからは、こまめに遊びに来ようかな」
「へ?」
「その方が、赤也も足代が浮くでしょう?それに…まぁ、いいや」
 何かを含んだように言って微笑うと、不二サンは硬直しているオレの上にのしかかり、深く唇を重ねてきた。
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