258.カフェ(不二リョ) |
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「なぁ、そろそろなんじゃねぇのか?」 「あ。そうですね」 「いつも助かるよ。育ちざかりっつぅの。よく食っててくれるからな」 「…そりゃ、マスターは助かるでしょうね」 「は?」 「いいえ。なんでも」 そんな会話が終わる頃、カラカラとベルが鳴って扉が開いた。この時間、人の居ない時間になると、毎日のように彼らが来る。『毎日のように』であって『毎日』でないのは、僕がバイトをしていない時は来ないからだ。 「不二先輩。オレ、バイト代入りましたから、今日は売上に貢献しますよ」 「今日も、でしょう。いつもありがとね、桃」 カウンタ。いつもの席に二人が座る。僕は桃に礼を言うと、珈琲を淹れた。隣でつまらなそうな顔をしている彼の前に、それを置く。 「何変な顔してるの、リョーマ」 「……悪かったっスね。売上に貢献してなくて」 「君はいいんだよ。色々注文されても、僕の財布が軽くなるだけだから」 「俺だって金くらい――」 彼の言葉を遮るようにして微笑う。僕の笑顔に弱い彼は、不満そうながらも、顔を赤くした。見栄を張っているのか何なのか。珈琲をブラックのまま飲む。その姿に、僕はまた、微笑った。 喫茶店でアルバイトを始めたと言ったら、彼で遊びに来た。僕のこの制服姿が気に入ったらしく、その後も、僕の予定を確認しては、毎回来るようになった。余りジロジロ見られるので、ほんの少しだけ視姦されている気分になる。それはそれで悪くない。 そんなことが一ヶ月も続いたあと、彼は一週間ほど喫茶店に現れなかった。どうしたのかと訊いてみると、まだ中学生なのだから仕方がないけど。先月の小遣いが全て珈琲代に消えてしまったらしく、今月は自粛するとのこと。それならば、と。僕は誰か売上に貢献しそうな友達を連れてくることを条件に、彼の分の珈琲代を奢ることを提案した。 で。彼が連れてきたのが、桃城。リョーマに気がある所が少々気になるが。桃は本当に売上に貢献してくれているので、文句は言えない。とはいえ、リョーマから見ると、桃は僕に気があるように見えるらしく、実際はもしかしたら僕たちのどちらにも気が無いのかもしれない。 それならそれで、ありがたい。 「どう、美味しい?」 「さぁ?俺、コーヒーなんて飲み比べたこと無いんで」 「そ。でも、不味くは無いでしょう」 「そりゃ、不味かったら残してますから」 素っ気無い言葉を、僕を見ずに返す。でもそれは怒ってるとかそう言うのではなく、直視できないからだということを、僕は知っている。 だから、ほら。僕が彼から眼をそらして、他のことをしていれば。彼はじっと僕を見つめてくる。僕がそのことに気づいてないのだろうと思ってるみたいだけど。こんな熱視線、気づかないというほうが可笑しいでしょう。 「コーヒー。もう一杯、いいっスか?」 「いいよ」 桃がまだ食べているから。することがなくなった彼は、僕におかわりを注文した。その様子を見てマスターが首を傾げるけど。僕はそれを得意の微笑みでかわした。 彼の珈琲代を僕が奢っているということは、僕たちだけの秘密だから。 |
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