259.スモーク(不二跡)
「俺様の美技に酔いな」
 ドライアイスで作ったスモークの中から出てきた彼は、そう言うと僕に向かって持っていた上着を投げた。まるで、ギタリストが観客にピックを投げるみたいに。
 素直に受け取った僕に、どうだ、と言いたげにニヤリと微笑った。
「うんうん。格好良いよ」
「だろう?次から、スモークもたこうと思っているんだ」
 拍手をすると、彼はますます気をよくした。その姿が可愛くて、少しだけ見惚れてしまう。けれど、彼は僕が格好良いから見惚れているのだと勘違いしたらしい。小さなステージの上で僕を見つめると、ふ、と気取ったように微笑った。
「でも、知ってる?ドライアイスってね。滑るっ」
「!」
 滑るんだよ、という前に、ステージから飛び降りようとした彼は足を滑らせて僕のほうへ向かってきた。
「っと」
 慌てて、それを受け止める。抱きとめられた彼は、赤い顔をしていた。それは滑ったのが恥ずかしいんじゃなくて。
「……結構、力、あるんだな」
「そりゃあ、オトコのコだしね」
 ベッドの上くらいでしか感じることの無い僕の男らしさを、不意打ちで感じたから、らしかった。
 彼の体勢を整えてやる。
「スモーク、止めておいたほうがいいかもね。危なっかしくて、僕がついてなきゃ」
「慣れりゃいいだろ。それに、てめぇがいなくても、樺地がいる」
「そう。じゃ、もう僕は受け止めないよ?」
「……そう言う意味でいってんじゃねぇよ、バカ」
 手を離そうとした僕に、しがみつくようにして抱きつくと、彼は肩に顔を埋めた。僕がやろうとしても出来ないのに、ソレを彼はいとも簡単にやってしまう。その体格差が、少し恨めしい。
「冗談だよ。分かってるって。だから、ね」
 手を伸ばし、彼の背を優しく叩く。微笑う僕に、バーカ、ともう一度呟くと、彼も微笑った。
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