260.ビート(不二幸)
「どうしたの?」
「どうもしない」
 見下ろす不二から顔を背けると、俺は目を瞑り枕に顔を埋めた。
「こっち向いてよ」
「断る」
 クスクスと降ってくる微笑い声に、余計に強く眼を瞑る。
「慣れてるはずなのにね」
「こういうのは、慣れていない」
「こういうのって?」
「…………」
 耳に息を吹きかけてくる。俺は思わず体を強張らせてしまった。また、不二が微笑う。
「ねぇ、こっち向いてってば」
「眩しいから」
「眩しいだけ?」
 不二の手が、俺の頬に触れる。顎を掴むと、無理矢理に顔を向けさせられた。眼を瞑っていれば良かったのだが、つられるようにして眼を開けてしまったから。
「っ」
 目が合った俺は、一瞬にして顔が赤くなってしまった。不二の顔がゆっくりと近づき、唇が重なる。深く。
 慣れている行為。の、筈なのに。さっきから、心臓の音がうるさい。
「たまには、こういうのもいいよね。幸村にはやっぱり、白が似合うよ。蛍光灯なんかじゃなく、太陽の白が」
「……白は嫌いだ」
「でも、似合うのは仕方ないよね」
 眩しさに目を細めた俺に、不二は微笑うと、綺麗だよ、と呟いた。陽の光を浴びて微笑うその姿のほうが、白が似合うと思うし、綺麗だとも思う。
 なんて、見惚れていると。突然、抱き締められた。体重が、一気にかかる。
「ねぇ、聴こえる?心臓の音」
「……不二?」
「僕はまだ、幸村にこれだけドキドキ出来るんだよ。これって、結構凄いこと」
 耳元で囁く不二に、俺は黙ると目を瞑った。自分の鼓動じゃないそれを、聴く。
「確かに。不二の鼓動、早い」
「でしょう」
 俺の言葉に、照れもせず、逆に満足そうに微笑うから。
「だが、俺より劣ってはいるけど」
 呟くと、俺は自分の鼓動を聴かせるように、その体を強く抱き締めた。
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