261.コンビニ(周裕)
「相変わらず情報早いね、裕太は」
「兄貴が遅ぇだけだよ」
 少し誇らしげな裕太の声に、そうかなぁ、と呟きながら微笑った。
「裕太が早いんだと思うけどな」
「まっ、兄貴はコンビニなんて殆んど行かねぇから、仕方ねぇよ」
 言いながらも、満更でも無い口調。僕はマイクを抑えると、クスクスと微笑った。変わらないな、昔から。そう、思う。
 少しでも僕よりも勝るものを見つけると、裕太はそれを伸ばそうと躍起になる。今は、身長と、コンビニ。
 裕太の言う通り、僕は殆んどコンビニを利用しない。だから、新商品の情報とか全然入って来ない。そもそも、流行というものに余り興味が無いから、コンビニに限らず、色々疎かったりするんだけど。その中でも、コンビニに関しては特に疎い。それにはまぁ色々と事情があるのだけれど。
 新商品が入ると、裕太は僕に電話をしてくる。特にそれが食べ物の場合は、必ずといっていいほどの確率で。そして、僕にその商品についての感想をいい、薦める。そして僕は、後日その商品を買い、裕太に電話で感想を伝える。
 離れ離れになった兄弟の、大切なコミュニケーションの一つだ。
「――うん。分かった。じゃあ、明日あたりコンビニに行って来るよ。そうしたら、また電話するから」
「おう。今回は兄貴もぜってー気に入るから」
「そう?楽しみだな。……じゃ、また明日」
「ああ。またな」
 携帯を切りベッドに投げると、僕も体を投げ出した。
「明日、か」
 本当なら今すぐにでもコンビニに走って、裕太に電話をしたいけれど。そうすると、明日の楽しみがなくなってしまうし、楽しみを先延ばしにするというのも悪くないとも思うから。僕はまた、溜息を吐いた。
「裕太は、どう思うかな…」
 僕が、裕太からの電話を心待ちにしてるってことを。裕太をガッカリさせない為に、コンビニには殆んど行かず、情報も出来る限り入って来ないようにしてるってことを。僕の気持ちを。知ったら、どう思うだろう。
 それとも…。
 案外、裕太も僕に電話をしたくてコンビニの情報を集めてるのかもしれない。なんて。それは余りにも都合が良すぎる、か。
「兎に角、明日だ」
 呟くと、僕は放りっぱなしだった携帯電話を握り締めた。


「あ。裕太?今日コンビニ行ってきた…」
「なぁ、兄貴」
「ん?」
「昨日、姉貴とか母さんとかとオレの噂してなかったか?」
「何で?」
「電話切ったあとさ、なんかすっげぇ勢いでクシャミでたんだけど」
「―――え?」

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