262.ハイウェイ(不二跡)
「……これ、誘拐」
「うるせぇよ。誰のせいだと思ってやがんだ」
 これから誰かの元へ行こうとする不二を、無理矢理に車に乗せた。下手をするとこいつは、信号待ちの間にでも車を降りちまう可能性があるから、俺は高速へとのった。
「僕の所為なの?」
「……ちっ」
 何にも分かってないフリしやがって。聴こえるように舌打ちをしてやるも、不二には全然通用してねぇようだった。
「兎に角、今夜は付き合え」
「付き合えって…。まぁ、いいけど。でも、一時間したら降ろしてよね」
「降ろしてやるよ。夜が明けたらな」
「だから、僕、これからデートなんだってば」
「今夜は付き合え、つっ言ってんだよ。デートなんか、いつでも出来るだろ」
 少しむくれてみせる不二に薄笑いを浮かべて言うと、俺はラジオをつけた。流れてくる曲に掻き消されて聴こえなかったが、隣で不二が何かを呟いていた。
「なっ」
 嫌な予感がして振り向くと、不二は走っている車のドアを開けようとしていた。慌てて手を伸ばし、その首根っこを掴まえて引き戻す。
「死ぬ気か、てめぇは」
「違うよ。帰るだけだよ」
「だから、それが死ぬ気かつってんだよ。幾らてめぇの運が良くても、掠り傷程度じゃすまねぇぜ」
「そんなに心配するんだったら、安全に僕を帰してよ」
「…………」
 不二の言葉に溜息を吐くと、俺は無言でアクセルを踏んだ。幾つもの車を追い越し、走る。
 折角ここまできたんだ。ここで、降ろすわけにはいかねぇ。どうせ降ろすにしても、少しは俺の気持ちを伝えてからじゃねぇと。
 手塚の肩を壊してから、ずっと嫌われないようにする為に気を使ってきたが。いい加減、それは俺らしくねぇってことに気づいた。だから、今夜はかなり強引でも、嫌われても、俺らしいやり方で、想いを告げたい。
「まぁ、いいか」
 パチン、と音がする。見ると、不二は携帯を広げていた。
「メール、送っとくことにするよ。君もなんか、切羽詰ってるみたいだしね」
「……気づいてんじゃねぇかよ」
「ん?」
「なんでもねぇよ。とっととメールしやがれ」
 それとも、今のそれ程までに切羽詰ってる状態なのか。どちらでもいい。気づかないフリをしていたのだとしても、本当に気づいていないとしても。今夜直接想いを告げちまえば、同じことだ。
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