263.散歩(不二ジロ)
「不二ぃ。オレ、もう駄目っぽい」
「嘘。……ホント?」
「ホント。あー…」
 大きな欠伸をすると、彼は僕の肩に寄り掛かってきた。歩きながらなのに。
「ほら、しゃんとして。折角の良い天気なのに、眠ってたら勿体無いよ」
「せっかくのE〜天気だから、ちょっとお昼寝。ふぁ…」
「わっ。え?ここで?」
 殆んど眼が開いていないのかと思ったら、彼は全く眼を開いていなかった。僕の肩に無理矢理に乗せた頭が、どんどんと重みを増す。
 その体がずり落ちる前に、僕は彼の腕を掴むと、自分の肩にかけた。そのまま、彼を背負う。
「えー。不二、おんぶしてくれるのー?」
「何だ。起きてるんじゃない。恥ずかしい?なら、降りてそこまで歩こうか」
「いや、オレ、不二の背中で寝っから」
「え?うっそ…」
 背負えば嫌がって起きるだろうと思ったのに。彼は猫みたいに僕の頬に自分の頬を擦り付けると、そのまま肩に顎を乗せ、動かなくなってしまった。
 本当に眠っているのか、狸寝入りなのか。どちらにしても、起きてはくれないだろう。
「全く。人がいない時間帯でよかったよ」
 まるで独り言。はぁ、と溜息を吐くと、僕は近くのベンチに向かった。彼をそこにそっと降ろし、その隣に座る。
「ん…」
 ああ、本当は起きてるんだな。なんて。分かりやすい行動。彼は僕の肩から頭を滑らせると、膝の上にそれを乗せた。体の位置を整える。
「やっぱり、不二の膝は気持ちE〜」
「……あのさ。今日はお昼寝をしに来たわけじゃなくて、散歩をしに来たんだけど」
「だからちょっと、きゅーけー…」
 口篭もるようにして言うと、彼は僕が言葉を返すよりも先に、本当に眠りについてしまったようだった。はぁ、と溜息のように微笑う。
「余り寝てると風邪引いちゃうから。少しだけ、だからね」
 もう恐らくは聴こえてないだろう彼に言うと、僕はその髪を好くようにして撫でた。
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