264.自転車(不二リョ)
 今日は僕の愛車で、送ってってあげるよ。
 なーんて言われて。愛車って、どうせ姉の車に乗って、否応なく先輩の家に連れてかれるんだろうって。そう思ったんだけど。
「……なんスか、これ」
「何って。見て分からない?」
「分かるっスけど」
 ニッと微笑った先輩が乗っていたのは、桃先輩の自転車だった。それりゃそうだ。先輩は、学校へは自転車で通学なんかしてないし。
「いや、だから、なんで桃先輩の自転車にアンタが乗ってんすか」
「桃ってさ、僕と3センチも身長違うくせに、足の長さ殆んど変わらないんだよね。おかげでサドル、下げなくてすんだよ」
「そうじゃなくって…」
「だってリョーマ、この自転車がお気に入りなんでしょう?昨日もこの自転車と一緒に帰ったみたいだし」
 更なる笑顔を作ると、先輩は棘を含んだ言い方をした。
 バレてたんだ。昨日、桃先輩と一緒に帰ったこと。でもだって、マック奢ってくれるって言われたら、仕方ないじゃん。それに、先輩と帰ること、約束してたわけじゃないし。
「いいから、乗りなよ。大丈夫、安全運転だから」
「改めて言われると、余計に不安になるんだけど」
「だったら落ちないように、しっかりと僕に掴まってれば良いじゃない。桃のときみたいに立ってないでサ」
「…………」
 楽しそうに微笑う先輩に、俺は溜息を吐くと帽子を取った。仕方なく、荷台に座る。
「ちゃんと掴まっててね」
「勿論っスよ。俺だって、こんなところで死にたくはないっスからね」
 呟く俺に、ふふ、と微笑うと、先輩は自転車を走らせた。しっかりとその腰に腕を回し、背中に額をくっつける。
 自転車がスピードを出すと、その分身体に風があたって、少し肌寒くなるけど。先輩に触れてるところは、伝わってくる体温のお蔭なのか、全然寒くはならなかった。寧ろ、熱いくらいだ。
「ふふ」
 ギュ、とその体を抱き締めてると、先輩が突然微笑った。声は耳から聴こえてこなかったけど。くっつけてる額から伝わる振動で、微笑ってるのが分かった。
「なに微笑ってんスか」
 聴こえないかもしれないと思ったから、俺はもっと先輩の背中に顔をくっつけて言った。
「いや、なんかさ。恋人同士みたいだなって思ってね。ほら、もう手を繋いで歩いててもそんな風には思わなくなっちゃったでしょう。だから」
「っ。……何言ってんすか、アンタは」
「ほら、リョーマ。飛ばすから、ちゃんと掴まって」
「っス」
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