274.ひそひそ(不二リョ)※『228.穴』の続き
 手塚部長と眼が合って。俺は驚くほどわざとらしく眼をそらしてしまった。気づかれたかもしれない。ビクビクしながら、不二先輩に近づく。
「ねぇ、やっぱり怒ってるっスよ。どーすんスか。校庭、100周じゃすまないっスよ」
「そうだよねぇ。手塚の手の長さと、ジャンプ力をもっと考えておけばよかったよ」
「そうじゃなくって…」
 朝っぱらから不二先輩に騙されて作らされた落とし穴。といっても、その目的が分かった俺は、途中から見学に入ったんだけど。でも、結局止められなかったから、俺も同罪ってわけで。
 まぁ兎に角、深さ2メートルにも及ぶ落とし穴に見事に嵌った部長は、今、土塗れの姿でコートをうろついている。犯人を探そうとしているのか、目が、いつも以上に怖い。
「自首、しちゃいましょうか」
 そうすれば、せめて校庭100周で済むかも知れない。それに俺は、落とし穴作りは止められなかったけど、嵌った部長にさらに土をかけようとする不二先輩を止めることには成功したわけだし。罰はこの人よりはきっと軽い。
「それは余り良い考えとはいえないなぁ」
 隣に並んだ状態で、コートを見ながら話をしていたのだけれど。不二先輩は何故か笑いを含んだ声で言うと、体をかがめて、俺の耳元に唇を寄せてきた。
「僕に、いい考えがあるんだ」
 トーンを落とした声。その声色に、俺の背筋はぞっとした。眼だけを動かし、先輩を見る。先輩は、この上ないほど、爽やかな笑みを浮かべていた。
「僕たちの仕業だって気づく前に、もう1回、今度こそちゃんと埋めちゃえばいいんだよ」
「……悪魔。俺はやらないっスよ。そんなことするくらいなら、自首します」
「別に良いけど。そうしたら僕は、リョーマの単独犯ってことで、白を切り通すから。なぁに、手塚は僕に惚れてるからね。信用してくれる筈だよ」
「…………」
「さぁ、どうする?」
「………お、れは――」
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