275.落下(不二橘) |
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何処まで行けば底が見えるのか。俺には検討もつかない。 ただ分かるのは、逆らってはいけないということだけだ。 逆らってはいけない。そもそも逆らえるはずもない。俺は翼など持っていないのだから。 「っ」 首筋に痛みが走る。思考を戻すと、不二が詰まらなそうな顔をしていた。 「また、考え事?」 「痕はつけるなと言わなかったか?杏が気にするだろう」 「歯形だから、ちゃんと消えるよ。色んなこと、してるうちにね」 一転して愉しそうな表情になると、不二はそのまま俺に容赦なく触れてきた。抑え方などとっくに忘れてしまった声が、その動きに合わせて漏れる。 「っていうかさ、橘、杏ちゃんのこと実はそんなに気にしてないんじゃないの?」 「根拠は?」 「声、垂れ流し」 「たれっ」 妙な表現の仕方だと思ったが、反論は出来なかった。確かに垂れ流しだ。不二に誘われるまま、半開きの口から声が零れて行くのだから。 「杏のことは気にかけている。つもりだ。ただ」 「……ただ?」 「何でもない。気にするな」 深追いを避ける為に自分からキスをする。納得の行かないような顔をしていたものの、不二は再び指を動かし始めた。眼を瞑り身を委ねる。 杏のことは気にしている。だが不二がそれをさせなくする。飲み込まれた俺は何処までも落ちて行き、そして微かに見えていた理性の光すら消えてしまう。それでもまだ底は見えない。落ちている不安定な状態のままだ。不二に触れたあの日からずっと。 「だからか」 「何?」 「俺が不二に魅せられる理由がようやく分かった」 「でも、教えてはくれないんでしょう?」 「そうだな」 頷く俺に不二は何故か愉しそうに微笑うと唇を重ねてきた。それに応えながら俺も微笑った。相変わらず底の見えない奴だ、と。 |
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