276.帰り道(不二リョ)
「だーっ、もういいっスよ。周助のバカっ」
 いつもの展開。頬を膨らせて少しだけ歩調を速める彼に、僕は苦笑した。離れないように繋いだ手を強く握り締め、歩調を速める。
「怒らないでよ」
「怒ってないっス」
「怒ってるじゃない」
「呆れてるだけっスよ」
 顔を覗き込もうと彼の少し前に出ると、それが不満らしく彼はさらに歩調を速める。それでもめげずに顔を覗き込むと、また、速くなる。その繰り返し。そして、終には走り出す。
「ねぇ。呆れないでよ」
「…………っ」
 手は繋いだままだから。その手を強く引き、彼を抱き寄せる。遅れてついてきた彼の鞄が体に当たったけど、そこらへんは気づかないフリ。
「リョーマに見放されたら、僕、終わりだからさ。これからも変わることはないと思うけど。どうか見捨てないでやってよ」
 ぎゅっと抱き締め、耳元で囁く。
「……ずるいっスよ」
 呆れたような声で言うと、彼は僕から離れた。体と一緒に離れてしまった手を、彼の方から繋ぎ直す。
「そうやって、俺にだけ努力を強いるんスから」
 怒ってるわけじゃなく、夕陽のせいでもなく、赤くなっている彼の頬。
「ありがとう」
 呟いて微笑うと、彼の手を強く握り返した。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送