278.水玉(不二橘) |
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部屋に入ってきた彼を見て、僕は思わず吹き出した。訝しげに眉を寄せる彼を隣に座らせ、既に乾いてしまっている髪を撫でる。 「何を微笑ったんだ?」 いつまでも頭を撫でている僕の手を取り自分の肩に回すと、彼は少しだけ満足そうな声で言った。その優しい響きに、僕もまた、満足げな顔になる。 「慣れたもんだなって思ってね。君のその姿」 初めて見たときは、爆笑ものだったけど。 「今では、僕もおそろいだ」 自分のパジャマを引っ張って見せると、僕は微笑った。彼も、少し照れたように微笑う。 「すまんな、杏が我が儘を言ったせいで」 「別に。杏ちゃんの大切なお兄ちゃんを奪っちゃったんだから、これくらいのことはしてあげないとね。それに、ペアルックも嫌いじゃないし」 クスクスと微笑いながら、彼と一緒にそのままベッドに倒れる。お揃いの、水玉模様のパジャマ。こうして見ると、まるでひとつの体になったような錯覚に陥るから、不思議だ。彼を抱き締めている僕の腕が、まるでそのまま彼の体の一部のように見える。 境界のない関係。僕の理想とする所が、そこにある。 とはいえ、このカラフルさには流石の僕も彼女の趣味を疑ってしまったけど。 「そう言えば、杏がまた俺とお前にパジャマを買おうとしているらしいぞ」 圧し掛かってキスをしようとするのを中断させるように、突然彼は呟いた。 「何で?」 「今度は、お前の家で着るとき用だと」 「………マジ?」 困ったような彼の顔に、彼女がどんな色のものを選ぼうとしているのか何となく察しがついて、硬直したけど。 「でもそれって、君の外泊許可がおりたってことだよね?」 「……そう、だな。全く。喜んで良いんだか、悪いんだかという感じだな」 「喜んで良いんじゃない?どうせ、直ぐ脱いじゃうわけだし」 クスクスと微笑いながら言う僕に、そうだな、と妙に真面目に答えると、思いがけず彼からキスをしてくれた。 |
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