279.恋心(不二真)
 俯いている、不二を見つけた。
 気になって、不二の座っているベンチの近くをうろついてみるが、声をかけることは出来なかった。
 自分の荷物の元へ戻り、ベンチに腰を下ろす。
 思わず、溜息を吐く。自分の試合が終わったからとはいえ、未だ大会中ではある。なのに、他校生のことが気になるなどとは。
「たるんどるぞ、弦一郎」
「……蓮司か」
「気になるのか、不二のことが」
「まぁそんなところだ」
 蓮司を適当な返事であしらうと、俺は再び歩き出した。本当に、たるんどる。だが、こればかりは仕方がない。
 相談なら、蓮司にはしたくない。俺の気持ちがバレているとはいえ、それ以上の弱みを見せることは禁物だ。一番信頼できるのは柳生だが、もし仁王の変装だとしたら、後に冷やかされることは必死だ。やはり、誰かに頼るのは止めておこう。自分で何かをする前に人に頼るなどとは、それこそ、たるんどる証拠だ。
 さて、どうするか。
 悩みながら歩いていると、また、不二の前に来てしまった。だが、そこにいた不二は、気遣うようなものではあったが、笑みを浮かべていた。
 周りに群がる、メンバー達に。
 こういうとき、接点が対戦相手ということだけだというのは、辛い。せめて友達であれば、対戦していたとしても、こう言った時に声をかけられるのだが。そう、青の中でひとり混ざっている赤、佐伯のように。
「仕方がない」
 自分に言い聞かせるように呟く。溜息を吐くかわりに、大きく息を吸い込み、背筋を伸ばした。そのまま、その場を足早に去る。
 人生はまだまだ長い。この先ゆっくりと近づいていけばいいのだ。但し、この想いが消えないうちにではあるが。
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