282.ちょっとだけ傷ついた(不二リョ)
「うーん。可愛いなぁ、カルピンは」
 一体いつの間に部屋にもぐりこんだのか。擦り寄ってきたカルピンをひょいと抱きかかえると、先輩はカルピンにキスをした。そのまま、自分の膝に大事そうに乗せる。早くも喉を鳴らし始めるカルピンに、先輩は穏やかな笑みを見せながら、その毛並みを整えるようにして撫でる。
「ん?」
「何スか」
「いや、変な顔してるな、って思ってさ」
「誰が」
「リョーマが。もしかして、怒ってる?」
「理由もないのに怒りませんよ」
「……ふぅん」
 意味ありげに呟くと、先輩は微笑った。けど、直ぐその目線を、膝の上にいるカルピンに向けてしまった。
 ちょっとだけ、胸が締めつけられる。
 けど、動物相手にいつまでも妬いてるなんて思われたくないから、俺は平気な顔してゲームをセットし始めた。
 そう、これはいつものことなんだ。俺が先輩ほったらかしでゲームしてんのも悪いのかもしんないけど、先輩はその間いつもカルピンと仲良さげにしてる。最初はあからさまに怒ってたんだけど、結局からかわれるだけで。だから、もう俺は諦めた。……フリをしてる。
 実際は、動物相手でもモノ相手でも、先輩が俺以外の何かに穏やかな表情を見せたり、ましてやキスしたりなんかするのはもの凄く嫌なんだけど。
「ねぇ。やっぱりリョーマ、怒ってるよね。もしかして、僕たちが仲が良いんで、ヤキモチ妬いてるのかな?」
「ほぁら」
 見ると、先輩はまたカルピンを持ち上げていた。ちゅ、と音を立ててキスをする。
「ね、リョーマ。妬いちゃう?」
「……別に」
 カルピンを抱えたまま楽しそうに言う先輩に、俺は有りっ丈の不機嫌を詰め込んだ声で言うと、テレビゲームのスイッチを入れた。
「……そうやって、僕がいるのに背を向けるの。ちょっとだけ、傷つくんだよなぁ。だからついつい意地悪したくなっちゃうんだよねー、カルピン」
 最初のステージをクリアする頃、俺の後ろで、そんな少しだけ淋しそうな声が聞こえた。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送