287.扉(不二リョ)
 罠だと分かっていて自分から飛び込むほど莫迦じゃないけど。好奇心とスリルに勝てるほど、僕は利口でもない。
 薄暗い部室に繋がる扉。この先には、彼が待っている。
 裏切り?まさか。ただの好奇心。そこには何の感情もない。ただ、今の馴れ合いの関係に、ほんの少しの刺激が欲しいだけ。
 ノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。
 普段は気にしていなかったが、キィ、と重苦しい音を立てて扉が開いた。
 正面には、ベンチに座って真っ直ぐ僕を見つめている彼。
「待ってたよ、周助」
「……気安く、名前で呼ばないでくれるかな。手塚にだって呼ばれたことないのに」
「でも、今日でアンタは俺の先輩じゃなくなるんだから。別にいいっしょ」
「先輩だよ。これからも、ね」
「イケナイコトするのに?」
 目の前に立った僕に、彼は手を伸ばすとそのまま唇を重ねてきた。
「イケナイコト、だからだよ」
 勝気に笑う彼に、ニィ、と微笑って見せると、僕はその肩を掴み、深く口付けた。ベンチの上だと落ちそうなので、彼を引き摺り下ろし、冷たいコンクリートの上に押し付ける。
「でも、ずっと俺とヤりたかったんでしょ?だから誘いに乗ったんじゃないの?」
「敬語も無くなっちゃったのか。まぁ、いいか。今日くらいは」
「今日くらい?」
「そう。今日だけ。今だけ、だよ。別に僕は君としたかったわけじゃない。誰でも良かったんだ。手塚との馴れ合いの関係の刺激になってくれるなら」
 ゆっくりと、服を剥がす。もう一度唇に触れ、そのまま首筋へと舌を這わせる。
「っ。じゃあ、俺じゃなくても良かったんだ。残念ってゆうか、ラッキーってゆうか」
「ラッキーなんじゃないかな。だって、君は僕とヤりたかったんでしょう?そこに感情が伴わなくても」
「……リョーマって呼んでよ」
「駄目。今日は、君の名前は呼んであげない」
「っ、ケチ」
 急に子供じみた口調になる彼に、僕はクスリと微笑った。それよりももう少し大人な声が聞きたくて、強めの刺激をその小さな体に与える。
「はっ」
 予想通りに漏れてくる彼の声。それを聴きながら、僕はこの罠をどう切り抜けるかを思いがけず必死に考えていた。
 このままだと、本当に彼と名前を呼び合う日が来ないとも限らなくて…。
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