290.日記(不二真)
「1月9日土曜日。晴れ。気温10度。不二からMAILが届いた。年賀状のかわりだという。年賀状のかわりだと言うのなら、元日に送ってよこすべきなのではないかと思ったが、それを言う事は身の危険に繋がりかねないので、年賀状に書いた事とほぼ同じ内容の返事を送った。俺がMAILが苦手なことを知っているからか、もうMAILは来なかった。それでも、久しぶりの不二からのMAILは嬉しかった」
 ふぅ、と溜息を吐くと、不二はパタンとその分厚いノートを閉じた。床に正座をし、顔を真っ赤にしている真田を見下ろす。
「これ、僕のことしか書いてないんだね」
「………悪いか?」
 らしくもないほどの小さな声で、呟く。不二はそんな真田にクスリと微笑うと、前に回り込み、同じように正座をした。けれど、顔を覗き込まれるのを拒むように、真田は体ごと横を向いてしまった。不二の正面にあるのは、真っ赤に染まった耳。
「悪いなんて言ってないよ。ただ、半分嬉しくて、半分淋しいかな」
「?」
「嬉しいのはさ、こうやって僕のことを書き留めておいてくれたこと。淋しいのは、ここに想いを書くくらいなら直接言ってくれればなって」
 もう一度真田の前に回りこむと、不二は顔を上げさせ、触れるだけのキスをした。日記を掲げ、ニッ、と微笑う。
「ここで提案。僕がこの日記を呼んで君の気持ちを理解するのと、君から直接気持ちを聞いて理解するの。どっちが良いと思う?」
「………どちらかを、選ばねばならんのか?」
「だってどうせ今日することないでしょう。ここらへんで、一度お互いの気持ちを整理してみるのも良いかなって。ね、どうする?」
「どちらも嫌だと言ったら?」
「そうだなぁ。無理矢理に君の口から聞きだすって言うのもありだよね」
 ふふ、と不気味に微笑うと、不二は日記を置いた。真田の手をとり、思い切り引き寄せる。
「どうする?」
 不自然な形でけれどしっかりと真田を抱き締めると、不二はその耳元に囁いた。耳にかかる吐息に、真田が微かな反応を見せる。
 そのまま暫く沈黙が続いたが、真田は溜息を吐くと、不二を引き剥がした。そうして、真っ赤に染まった顔で不二を見つめると、やっとのことで口を開いた。
「……む、無理矢理で」
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