291.タイムカプセル(不二リョ)※『18.自慢のコレクション』の続き
「何スか、急に呼び出して」
「んー。ちょっと、ね」
 不満げな口調の彼に、僕はクスリと微笑うと、機嫌を直すためにキスをした。
「……お酒くさいよ」
「しょうがないっしょ。さっきまで飲んでたんっスから。同窓会の途中だったんスよ?」
「だったら、僕の誘いなんて断れば良かったのに」
「アンタの誘いを断ったらろくなことにならないって、この七年弱の生活で分かってるっスから」
 不機嫌そうな口調。でも、満更でもない顔で言うと、彼は今度は自分からキスをしてきた。また、アルコールの匂いが広がる。
「で。何なんスか?裏庭なんかに連れてきて」
「んー。リョーマの成人式にね、開けようと思って」
「……何を」
「タイムカプセル」
「は?俺知らないっスよ、そんなの」
「うん。だって、教えてないからね」
 クスクスと微笑いながら土を掘る。彼は呆れたように溜息を吐くと、僕の隣にしゃがんだ。ただ、じっと僕の手元を見つめる。
「手伝ってよ」
「嫌っスよ。だって、俺、関係ないっスから」
「それが、関係あるんだな…」
 現れた大きなカプセルを両手で抱えると、しょっ、と声を出しながら僕はそれを地面に置いた。
「……もしかして、俺に関係するもんが入ってるとか?」
「当たり」
 嫌そうに言う彼に、愉しげに返すと、僕はそのカプセルを開けた。入ってるのは、厳重にビニールで包んであるフォトアルバムやCD-ROM、それにビデオ。
「もしかしてっ」
 顔を真っ青にしてそれらに手を伸ばすと、彼は直ぐに中身を確認できるフォトアルバムを開いた。そして、今度は顔を真っ赤にして僕を睨んだ。
「アンタっ、これ捨てたって…」
「言ってないよ。僕の部屋から排除したって言っただけ。捨てられるわけないじゃない。折角苦労して集めて、編集したのにさ」
 そう、このタイムカプセルに入ってたのは、中学1年の彼の写真や映像。それも、普通のものから、夜の際どいモノまで。隠し撮りだったんだけど、途中で見つかって。それでもまだ取り続けたら、いい加減捨てないと別れるって言われて。
「嘘つき」
「僕の苦労も分かってよ。ね、今夜はさ、これを見て思い出に浸ろうよ」
「嫌っスよ。自分の醜態に欲情するバカがどこにいるってんスか。俺、帰ります」
「ちょーっと。待ちなさい」
 背を向けて歩き出そうとする彼の腕を掴み、引き寄せる。
「……何スか」
「リョーマは欲情しなくてもいいの。それは僕の役目なんだから」
「だったら、独りで見ればいいじゃないっスか。つぅかそれで一生抜いてれば?」
「そんな言い方しなくても良いのに。非道いなぁ。あのね、リョーマには欲情とは別にやってもらうことがあるの」
「何だって言うんスか」
「過去の自分に嫉妬してね、それで僕を誘うの。ね、今だって、ちょっとはムカついてるんでしょ?過去の君に欲情しようとしてる僕に」
「ムカついてないっスよ」
「嘘」
「……もしそうだとしても、酔ってて思考が可笑しくなってるだけっス」
「じゃあ、酔った勢いって事で。このまま僕を誘ってみない?」
「………酔ってるから、っスからね。あくまで」
「うん」
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