298.トレイン(周裕)
「本当に駅まででいいの?」
「いいよ、大丈夫。ここから先、着くまでは、僕だけで裕太の事を考えたいんだ」
「そう」
 呆れたように溜息を吐く姉さんに微笑って見せると、僕は車を降りた。電車に飛び乗る。
 裕太のいる聖ルドルフ学院に着くまでのこの時間、僕はひたすらに裕太の事を想う。初めは淋しさから来るものだったけど、今はそれが楽しさに変わってる。
 今何をしてるだろうから始まって、今日はどんな風にして驚かそうかとか、どうやって攫って行こうかとか。そんなこと。考えるのが、楽しい。
 姉さんと一緒に迎えに行くのもいいんだけど。どうも僕たち二人がそろうと凡人にもその気配が理解ってしまうらしく、突然現れて裕太を驚かすことがなかなか出来ない。それはちょっとつまらないし。それに、姉さんには悪いけど、裕太は僕だけのものだから。こういうこと、考えてもいいのは僕だけだし。
 なんて。色々考えてるうちに、あっという間に目的の駅に着いてしまった。
 携帯を開け、時間を確かめる。今は丁度、夕食時、かな。
「ふふ…」
 部屋に戻ってきて僕が居たときの裕太の驚いた顔を想像して、不気味に笑みが零れる。その笑いをリズムに乗せると、僕は鼻歌を歌いながら、裕太のいない寮に向かって足を速めた。
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