300.練習中(不二リョ)
「はぁっ、はぁっ」
「何サボってんの?」
「だって、もっ…」
「はい、あと50回」
「〜〜〜っ」
 にべもない言い方の僕に、彼は真っ赤な顔で大きく息を吸い込んだ。
「GROUND10周っ!!」
 誰も居ないコートに向かって、叫ぶ。さっきからもうずっと叫び通しだから、彼の声は酷くざらついていた。
「だから、もっと日本語英語な発音で言わなきゃ。威厳、出ないよ」
「別に俺、威厳なんて」
「はい、口答えしない」
「ぐ、グラウンド10周!」
「その調子。あと48回ね」
「くっそぉ〜っ」
 ベンチに座ってファンタを飲む僕を睨みつけるけど。
「ん?」
「GROUND10周!」
 聞き返すと、彼はコートを向き、叫んだ。
「ほら、また英語な発音になってるよ」
「グラウンド10周!」
 真っ赤な顔で懸命に叫ぶ彼を、可愛いと思う。
 それにしても。何でこんなことやってんだか。彼は。
 どうしたら柱として皆に認めてもらえると思います?
 彼に訊かれて。
 とりあえず、グラウンド10周みたいなの、手塚みたいに言えるようになったら?
 って冗談で答えたら。鵜呑みにされた。
 面白そうだなと思って、そのままにしてるけど。いやぁ、本当に、面白い。面白いって言うか、なんか、そそる。
 僕の命令に従って、声を張り上げてる所為で真っ赤になった顔で、しかも今は叫びすぎて声は掠れて。
 こんな顔、なかなか見れるもんじゃないよ。というか、こんな顔をさせるときは、僕も必死だから、ちゃんと見れないし。
「……何、見てんすか」
「そのうち、眉間に皺が出来てくるのかなって思ってね」
「…………」
「ほら、いいから続けて」
「っス」
 僕の言葉に素直に頷き、必死で無意味な練習を再開する彼に。僕は、自分で言っておきながら、眉間に皺が出来たら嫌なぁ、なんてのんきなことを考えていた。
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