304.しばしのなぐさめ(不二幸) |
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「どうせ俺は死ぬんだ」 笑顔を崩さない不二に苛立ち、俺は呟いた。 「…………」 けど、不二は何も言って来ない。相変わらず、笑顔を浮かべたままだ。 俺の死ぬんだと言う台詞は、もう半分口癖になっているから。不二は呆れてしまっているのかもしれない。だが、不二を、その笑顔を前にすると、どうしてもそういいたくなってしまう。 「死ぬんだ。どうせ」 折角、こんなに好きになったのに。 「…………」 俯いて、横目で不二をみたけど。不二はやっぱり何も言ってくれはしなかった。ただ、少しだけ笑顔を曇らせてはいたが。それが余計に、俺を苛立たせる。 「……幸村」 苛立ちに握りしめた俺の手に手を重ねると、不二は落ち着いた声で名前を呼んだ。 顔を上げる。と、唇を深く重ねられた。 「でもさ、幸村が健康体だったら、僕たちはこういう関係にはなれなかったわけだし。いま、ここに入院してるから、こうして毎日会えてるんだよ」 額を合わせ、明るい声で言う。 それはそうだと思う。だけど。 「そんなの、慰めにしかならない。折角出会えても、死ねば終わりだ」 「別にいいじゃない。それでも」 不二の手を振り払おうとしたが、それよりも先に不二が俺の手を強く握り締めた。引き寄せて、俺を抱き締める。 「どこがいいもんか」 「先のことよりも、今はこうして一緒に居られることを喜べばいいんだよ。例え一時でも、ずっと絶望の中にいるよりはいいでしょ?」 背中を撫でならが、あやすような口調でいう不二に、俺は頷いた。けど。 不二は知らない。その後にやって来る絶望が普段感じているそれよりも深いという事を。不二と一緒にいる幸せが、その分俺を死の恐怖に駆り立てているという事を。 「……不二…」 そんな俺の気持ちを知らない不二に苛立ちながらも、俺は強く不二を抱き締め、そして涙していた。 |
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