305.厳格なアナタ(不二真)
「約束の5分前に来ているのは当たり前だ」
 約束の時間ピッタリに来ても、いつも彼のほうが先にいて。じゃあ一体何分前にきてるのか、なんて訊いたら。当たり前のようにそう言われた。
「じゃあ、君にとって約束の時間ピッタリに来る僕は遅刻ってこと?」
「いや、それは…」
 僕がそう意地悪に返すことくらい予想できるはずなのに、彼は慌てたように目をそらした。いや、案外、僕の顔が近すぎたからかもしれないけど。
「でもさ、そんなにガチガチに考えて、疲れない?」
「当たり前の事をしているだけだが。普通は、疲れるのか?」
「………あ、そ」
 彼の普通がそれってこと、忘れてた。
 まだ若干赤い顔で、不思議そうに僕を見つめる彼に、僕は、はぁ、と溜息を吐いて見せた。
「俺と居ると、肩が凝るか?」
「ん?」
「いや、学校などではよくそう言われるのでな。真面目すぎる、と」
「……ふぅん」
 彼の場合、まじめすぎると言うより、真っ直ぐ過ぎるって言うか、バカ正直すぎるって言うか、そんな感じがするけど。
「でもここは学校じゃないし。……あ」
 彼の手を握り、強く引く。目の前の信号が点滅したから駆け込みたかったけど。彼に、逆に手を引かれ、僕は足を止めさせられた。
「危険だ」
「走れば大丈夫だよ」
「駄目だ」
「……はーい」
 そうだ。学校じゃなくても、一応ルールってのはあるんだった。
 頷いて大人しくした僕に、彼は安堵にも似た溜息を吐いた。見上げると、満足そうな笑みを浮かべて、赤い信号を眺めていた。
 ああ、もしかしたら。その顔に、思う。
 もしかしたら、彼は。厳格だとか真面目だとかそういうわけじゃなく。規則を守ることにある種の快感を覚えてるのかもしれないな。
 だとしたら――。
「………ねぇ、真田」
「何だ?」
「もしかして。拘束されるの、好き?」
「…………は?」
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