307.飽和状態(不二切)
 不二サンが、最近冷たい。
 こうして並んでいても、必要最低限すらもオレを見てくれない。いつもはオレの反応を愉しむために色んな悪戯をしたりとか、そうじゃなくても優しく微笑いかけてくれたりしたのに。
 まぁ、元々、オレが不二サンを好きなだけで、不二サンがオレを好きじゃないわけだから、仕方ないんだけど。それでも、やっぱ、淋しい。
「あ、あの…」
「何?」
「えっと、その…」
「だから、何」
 怒ってるわけじゃないけど、何て言うか、興味なさげな反応。
 オレは息を吸い込むと、思い切って不二サンの前に周った。
「オレのこと、嫌いになったんスか?」
「別に。好きじゃないだけ」
 悩むこと無く、さらりと言う。けど、それは分かりきってることだから、オレは大してショックは受けなかった。まぁ、それでも、不二サンを直視できないくらいのショックはあるけど。
「何。嫌いになったとでも思ったの?」
「……だって、不二サンが最近冷たいっスもん」
「そう?そうか。じゃあ、やっぱりそうなんだ」
 オレの言葉に、不二サンは意外だという表情をした後で、納得したように頷いた。
「なん、なんスか?」
 訳が分からず見つめたオレに、やっとのことで微笑う。
「まぁ、飽きちゃったってことだよね、要するに」
「……あき、た?」
「そう。飽きた。多分、切原くんの行動パターンとか、殆んど分かっちゃったんだと思う。それで興味が無くなったんじゃないかな」
「なんスか、それ」
「さぁ?無意識でやってることだし。切原くんのせいじゃないよ」
 いつの間にか呼び方まで戻ってる。折角、名前で呼んでもらえるようになったってのに。
「さ。そんなことより。早く次の場所、移動するよ?って。あああ、なんか、駄目みたいだね。どうする?別に荷物持ち、やめてくれても構わないんだけど。続けるかい?」
「……オレの事、分かったってんなら」
「そうだね。……赤也」
 オレの言葉を遮るように言うと、不二サンはオレの名を呼んだ。顔を上げた瞬間、視界が暗くなる。
「じゃ。また来週」
 開けた視界。不二サンはそう言って微笑うと、オレの肩にかかってるカメラのケースを取り、あっという間に去っていった。
「………ホントに、分かってやがんのかよ」
 唇に残された温もりを指で確かめ、呟く。
「これだから、天才サンはっ」
 その指を折り込むようにして拳を作ると、オレは不二サンとは逆の、帰路への道を歩き出した。
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