308.謎(不二幸)
「俺ってそんなに分かりにくいか?」
 いつものように大人しく僕が林檎をむいている手を眺めながら、彼が呟いた。どうしたの、と僕が訊く前に、いや、と彼は溜息混じりに吐き出した。
「真田に、相変わらず分からない奴だと言われた。柳には謎とまで」
「……ふぅん」
 少々落ち込んだ風な言い方に、珍しいなと思いながら。それでもそんな気持ちは悟れられないように、僕は頷いた。林檎を一欠片、彼に渡す。
「僕からすれば、君は分かり易い方だと思うけどな」
「不二は、そういう勘みたいなの鋭いからな」
「……あ。ちょっと、ショック」
「?」
「てっきり、俺は不二にだけは全て見せてるからな、とかなんとか言ってくれると思ってたのに。あーあ。僕にもまだ隠しごと、してるんだ。それとも、分け隔てなく開け放ってる?」
 大袈裟に溜息を吐いて、項垂れてみせる。すると、少しの間の後で、彼は豪快に笑い出した。
「そんなこと気にするなんて。俺は、未だに不二のこと分からないな」
 その綺麗な顔立ちからは到底結びつかないような、笑い方。そう言えば、口調も真田くんと同じくらいに男らしい。今まで、余り気にしてなかったけど。
「幸村のそいういうギャップが、謎だって言われるんだと思うけどね」
「?」
 まだ笑いを引き摺っている彼に、僕は持っていた林檎をその口に押し込んだ。
「見かけに寄らず、漢(オトコ)なとこ」
 僕の言葉を証明するかのように、彼がたったのふたくちで一欠片の林檎を全て口に入れてしまった。
「けど」
 自分の手に持っていた林檎も口の中に入れると、彼は続けた。
「男らしさなら、不二の方が上だ。ああ、雄らしさ、か」
 何を思い出しているのか。天井を見上げ、納得したように何度も頷く。そんな彼に、僕は林檎の乗った皿を置くと、溜息を吐いた。ベッドに膝を乗せる。
「……幸村」
「何?」
「犯されたい?」
「…………えーっと…」
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