309.女帝(不二跡)
「流石は跡部だね。氷帝テニス部の頂点に立つだけのことはある。なんか、赤絨毯が見えてきたよ」
 組んだ腕に力を入れ体を寄せると、不二は感心したように言った。周りから、ざわめきやらちゃちいシャッター音やらが聞こえてくる。
 校庭からテニスコートまで、左右に分かれた生徒たちでそこにはないはずの道が作られていた。どこから情報が漏れたのかはしらねぇが、こいつらの大半は不二目当てだろう。俺が歩く時はそりゃあ多少ギャラリーはくっついてくるが、これほどじゃねぇ。まぁ、当の本人は気づいちゃいねぇようだが。
「差し詰め君は、女帝ってところなのかな?」
「じょ…。何で、女なんだよ」
「だって、皇帝じゃぁさ、立海の真田と同じじゃない。跡部、ヒトと同じなのって嫌いでしょ?それに、君の顔立ちなら、女帝でも不自然じゃないと思うけど」
 言うと、俺の腕に体重をかけるようにして不二はクスクスと微笑った。それとは反対に、俺は溜息を吐く。
「んなこというなら、てめぇの方が女帝っぽいだろ。髪はそれなりに長ぇし、背は低いし、顔立ちだって」
「駄目だよ、僕は。君ほど権力ないから」
「…………」
 何言ってやがんだ。確かに、部長だの副部長だのの肩書きはないが。いや、寧ろ、肩書きがない分、好き勝手出来るのかもしれねぇな。兎に角、こいつは存在自体が脅威だ。陰で魔王と言われてるみてぇだしな。
「そうだなぁ。僕はどっちかって言うと、魔王かな」
「って、自分で言ってんじゃねぇよ」
「あはは。……あ、そうだ」
 呟いてニッと微笑うと、不二は組んでいた俺の腕を自分の首に回してきた。やばい、と思ったが、抵抗するよりも先に、不二は俺の膝の裏に手をやると、軽々と俺を抱き上げた。
「なに、しやがる」
「ほら、ちゃんと体折らないと、背中から落ちるよ?」
「っ」
 脅すような不二の言葉に、慌てて俺は不二の首に腕を回した。体を密着させると、道を作ってる奴らの妙な声とシャッター音が増した。
「ね。このまま魔王様が氷帝の大切な女帝様を攫ってみせようか」
「てめっ、テニス部の見学はどうするんだよ」
「また今度」
 ね、と微笑い俺の額に唇を落とす。
「じゃ、そう言うことで。氷帝の皆さん、跡部は僕が攫って行くから」
 不二の行動にざわめきっぱなしのギャラリーに向かって声を張り上げると、不二は本気で、俺を抱えたまま校門に向かって足早に歩き出した。
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