312.目隠し(不二切)
「ふっ、じサン…」
「んー?」
「早くっ」
「んー」
 生返事。息を切らし悶える彼を目の端に捉えながら、僕はページを捲った。もう直ぐ、読み終わる。と、言う事は。
「ああ、もうこんな時間なんだ」
 点で描かれた数字。それが示す時間に、僕は微笑った。
 もう2時間も、彼は放置されているのだ。
「もう少しで読み終わるから。待ってて」
「ちょっ、待ってって何してんす…あっ、く」
 可哀相だから。手元にあるリモコンのスイッチを入れた。彼の中で大人しくしていたモノが動き出す。すると、彼はあっさりと2時間も我慢していた精を放った。
 なんだ。早くって、待ってたのは僕じゃないんだ。
 なんだか少し頭に来たから、もう一冊、本を読むことにしよう。
 それにしても。本来隠すべき場所には何も掛かっていず、隠すべきではない場所、目だけに布をかけておくというのも、妙だ。なんて。今更だけれど。
 感覚を1つ奪うと、それを補おうと、他の感覚が鋭くなる。最近読んだ本に書いてあった。興味を持ったから、彼で実践してみたけど。実際の所は、効果があるのかどうかは分からない。
 元々彼は、こういうことに貪欲だし。
「ひっ、あ…」
 まぁ、確かに。いつもよりも激しいリアクションを見せてはいるけど。それが、感覚が鋭くなった所為なのかなんて、僕には判断が出来ない。もしかしたら、いつ刺激が襲ってくるのか分からないという緊張の所為なのかもしれないし。
 リモコンを強にすると、彼はギシギシとベッドを揺らし始めた。縛られている手首が、見る見る赤くなっていく。
「ああ、そうだ」
 こんなこと、してる場合じゃない。
 いつの間にか閉じていた本を広げると、僕は再び読書に戻った。彼の声は、BGMにするには主張しすぎているけれど。まぁ、聴き心地は悪くない。
 そういえば。
 幾らもページが進まないうちに、僕は、思い出した。
 人間は、全ての感覚をシャットすると、数時間もしないで発狂するらしい。
 試してみようか?なんて。少し、思ったけど。駄目だよな。
 僕は彼が発狂する所を見たいわけじゃなくて、喘ぎ悶える所が見たいわけだし。だから、触覚は残しておかなくちゃ。
「……じゃあ、聴覚なら、いいかな」
「っなに?」
「うん。ちょっと、ね」
 本を閉じ、リモコンのスイッチを切る。そのことで僕が何かすると思ったのか、彼は期待の眼差しを僕に向けた。と言っても、目隠しされてるから、そう僕が感じ取っただけなのだけれど。
「ああ、あった」
 耳栓。これで、また1つ、彼の感覚を奪う。僕の声が届かなくなるのは少し切ないけど、でもこれで彼がもっと気持ち良くなってくれればいいと思う。僕の為にも。
「赤也」
「なん、スか?」
「好きだよ。じゃ、ね」
「えっ、なんスか?ちょっ、耳…」
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