313.リリィ(不二跡)
「うん。そうだね」
 優しい声で頷くと、不二は自分の膝の上に乗っている俺の頭を優しく撫でた。頭を動かし、不二を見上げる。俺と目を合わせた不二は、愚痴を溢し始めた時と同じ笑みを浮かべていた。
「……なに微笑ってやがんだよ」
「可愛いなって思ってね」
「っ」
 クスクスと微笑いながら言う不二に、不覚にも俺は顔が熱くなった。頭に乗っていた不二の手で自分の顔を隠す。
「んなことばっか考えてねぇで、真面目に聞けってんだよ」
「聞いてるよ、真面目に」
「嘘吐け」
 余計に微笑う不二に、俺はその手を口まで持ってくると噛み付いてやった。だが、息を詰まらせたものの、それだけで、不二は俺から手を引こうとはしなかった。
「そりゃ君は、氷帝をまとめる部長だもの。それなりの格好って言うものがあるだろうからね。不満は溜まるし、弱音は吐けないし。大変だと思う。でも、だから、僕がこうして捌け口になってあげてるんじゃない」
「だったら少しは真面目に聞け」
「だから、聞いてるってば」
 クスクスと微笑いながら、不二は俺が噛んでいない方の手で俺の体を起こさせた。膝に座るようにと、そこを叩く。
「あーあ。こんな奴に愚痴なんて零すんじゃなかった。情けねぇ」
 向かい合うようにしてその膝に座りながら、呟く。相変わらず笑顔のまま、不二は俺の首に腕を回し、キスをした。
「情けないだなんて、そんな。格好良いよ、跡部は。格好良いし、何より、可愛い」
「うる…」
「好き、だよ。そういう所も全部好き」
 だからもっと、僕によく見せて。ちゃんと話して。そうしたらきっと、僕はもっと君を好きになるから。
 俺を抱き締めながら耳元で囁くようにして言うと、不二は体を離し、俺の眼を真っ直ぐに見て、優しく微笑った。
「……ったく、敵わねぇな、てめぇには」
 呟いて俺も微笑うと、今度は自分から、不二にキスをした。
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