314.もういないあなたへ(不二橘)
「何を考えてるんだ?」
「……別に」
 頬杖をつき、窓の外を見つめる。その視線の向こうには、飛行機。それが、不二の視線の先に思い描いている人物を容易に連想させた。
「今ここにいない奴を、お前を置いていった奴を考えても仕方ないとは思わないか?」
「……手塚は、絶対に戻ってくる。戻って、くる」
 俺と眼を合わせることなく、もう何も無くなった空を見上げたまま、不二は言った。それは確かに呟きだったが、何よりも確信めいた強い響きだった。
 どうしても、俺じゃ駄目なのか…?
 幾度となく不二に問い掛けたが、答えは未だに貰っていない。それもそうだ。俺は、声に出して不二にそれを問い掛けたことは無い。答えが怖くて、いつまでも訊けないままでいる。
 駄目だな。こんなだから、駄目なんだ。それは分かっている。が、その問いかけをしてしまえば、この関係もなくなるのかと思うと怖い。
 折角、誘えばそれに乗ってきてくれるようになったのに、な。
 手塚、か。
「橘?」
「な、んだ?」
「顔、怖いんだけど」
「……あ、ああ。すまん」
 ふぅ、と溜息と共に苛立ちを吐き出す。が、一度だけでは全てを吐き出すことは出来なかったようだ。ぐ、とテーブルの下で拳を強く握り締める。
 手塚…。お前から全てを奪うつもりは無い。奪えないのは分かっている。だが。だから、せめて。お前のいない間だけでも、不二を俺に譲ってはくれないか?
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