318.No.13(不二リョ) ※『243.コンセント』その後。
「……今度こそは」
 首筋から幾本も伸びているコードを全て引き抜くと、僕は冷たいその躰を抱き上げた。隣の、部屋のベッドに横たえる。
 左足から伸びるコンセントを部屋の隅に差し込むと、小さく彼の躰から音が聞こえた。
 服を脱ぎ、その躰に圧し掛かる。冷たいそれを温めるように唇を重ね、起動させる。
「っん。じ、先輩?」
「……周助でいいよ。おはよう、リョーマ」
 微笑いかけ、もう一度キスをする。それで覚醒した彼は、まだ疑問の残る顔をしながらも、はよ、と小さく返した。そして、僕と自分との格好を見て、顔を赤くした。
 大丈夫。もう体温は元に戻っている。
「せ…周助、俺…」
「うん。ごめんね。昨日はちょっと無理しちゃったから。今日はこのまま寝てなよ。僕はちょっと、出かけてくるから」
「……うん」
「いい子だ」
 クスリと笑い、今度は額に唇を落とすと、僕は彼から離れた。脱いだばかりの服を着、部屋を出る。
 多分彼は今、必死で自分の過去を探っているだろう。彼の本物の記憶は事故に遭う少し前で終わり、その後は僕が作った記憶に摩り替わっている。大丈夫。また一からやり直しだけれど、今回はきっと上手く行く。
 携帯電話を取り出し、番号を押す。その途中で、バッテリーがもう少しで切れると、視界に警告が映った。椅子型の巨大な充電器に腰を下ろす。
「どうかしましたか?」
「一昨日、上手くいきそうだって言ったばかりだったのに。またバグが出たよ。プログラムを書き換えて、さっき起動させた」
「それまでの記憶は?」
「消えてる。一度バグが起こると、大和くんが取ってきた記憶以外は消えちゃうみたいなんだ。でも、この間はもう少しだったんだよ、本当に」
「……今度は、上手くいきそうですか?」
「上手く行くよ、絶対。書き換えたプログラム、見せに行こうと思ったんだけど。そろそろこっちもバッテリー切れみたいだから。充電、終わったら会いに行くよ」
「……いいですよ、明日でも。今日は起動させたばかりだし、越前くんが心配でしょう?」
「うん。ありがとう」
「構いませんよ。それに、そんな状態の不二クンと会っても――」
「え?」
「いいえ。何でもありません。じゃあ、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
 電話を切り、耳を澄ます。壁1枚隔てた向こうで、彼は眠りに付いているのだろう。物音ひとつしない。
 これなら、8時間くらい大丈夫そうだ。
 溜息を吐き、目を閉じる。スリープモードに切り替える瞬間、僕の回路に、それまでバグで消えていった12人の彼との記録が走馬灯のように襲ってきた。
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