321.睫毛の先の(不二橘)
「………泣いてるの?」
「っのことだ?」
「………別に」
 クスクスと微笑うと、不二は再び体を動かし始めた。口がだらしなく開き、堪えたいのに声が漏れてしまう。何とか口を閉じることに成功しても、それに不二が気付くと、キスをし、俺の努力を無にしてしまっていた。
「はっ…ぁ。はぁっ、はぁ…」
 背を仰け反らせ、荒い呼吸を繰り返す。いつもならそれで不二は隣に並ぶのだが、今日はずっと俺を見下ろしていた。
「なん、だ?」
「別に」
 クスクスと微笑う。わけが分からず見上げていると、不二は俺の頬に触れた。顔が、近づいて来る。
「っ」
 唇に触れるのかと思ったが、不二は思わず閉じてしまった俺の目に触れた。
「……やっぱり、泣いてる」
「?」
「ちょっと、しょっぱい」
 目を開けた俺に、不二は優しく微笑うと隣に寝転んだ。溜息を吐き、その後で再びクスクスと微笑う。
「生理的なものだろ。それか、汗だ」
 余りに微笑うから、俺は少し口を尖らせて言った。
「……ま、別に何でもいいんだけどね」
 暫く不思議そうに俺を見つめた後でそう言うと、不二は微笑いながら、赤くなった俺の頬に唇を落とした。
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