322.耳掻き(不二塚)
「…………」
「…………」
「………どうなんだ、この図は」
「え?駄目?」
「っ動くな」
 眼だけでなく顔ごとこちらに向けてこようとする不二を睨みつける。はーい、と子どものような返事をすると、クスクスと微笑った。
 不二は屋上に来ると、いつもオレの膝の上に頭を乗せ、横になる。今日もいつものようにそうしていたのだが、突然、思い出したように不二は起き上がると、どこからかそれを取り出してオレに言った。
 手塚、暇でしょ?どうせなら耳掃除とかしてよ。
 で。暇だし、オレは今、不二の耳掃除をしているわけなのだが。
「でもなんか、ちょっと、怖いかも」
「そう思うなら、黙っていろ」
 こういうのは、やり始めると夢中になってしまうタイプらしい。真剣なオレの言葉に、不二はまた、はーい、と返事をすると苦笑した。
 不二が大人しくしている。それがオレには、少し奇妙だった。それと、こうしてオレの方が不二をじっと見つめているのも。しかも、その視線の先は、耳。
 普段はその髪に隠れているから、不二の耳をじっと見つめることは少ない。オレを見下ろすとき、不二はその髪を耳にかけることもあるが、そのときオレは不二の耳を見る余裕などないから。こうしていると、やはり、奇妙だ。
 不二も、少しは奇妙だと感じているのだろうか?
「………ほら、次、反対」
 不二の耳を髪で隠してやり、その頭を軽く叩く。そのことに不二は体を回転させると、オレを見上げた状態で止めた。
「それじゃ、耳掃除出来ないだろう?ちゃんと向こう向け」
「ねぇ、手塚」
「……何だ?」
「終わったら次、僕がやってあげるね」
「?」
 何故か含んだような口調で言うと、不二はクスクスと微笑いながらオレにまた耳を見せた。
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