323.もういいよ。(不二橘)
 気が付くと、不二が俺に背を向けて膝を抱えていた。
 拗ねてるな。
 直ぐに分かったが、その対処法が未だに分からないので、俺は話を止めることしか出来なかった。
 原因は分かっている。俺の話の内容。
 杏のことを話しているときも、不二は拗ねたような態度をとるが、それは別に本当に拗ねているわけではなく――不二は杏を結構気に入っている――ただ俺を困らせたいだけなのだが。部員の話をしだした途端、本気で拗ねる。
 それが分かっていながら、俺はどうしてこう…仕方ない。ついうっかり、という奴だ。
「不二。すまない」
「………もういいよ」
「だが」
「ね。何について謝ってるの?」
「―――え?」
「そんなことだろうと思った」
 言いながら溜息を吐くと、不二は立ち上がった。そのまま帰ってしまうのかと思ったが、俺の手を取ると、ベッドに腰を下ろした。
「もういいよ。その話はいつものことだし。諦められるよう、僕が努力する」
「……すまん」
「でも、それは明日からね」
「?」
 驚く俺に不二は悪戯っぽく微笑うと、触れるだけの口づけをしてきた。俺の肩を掴み、ベッドへと倒れる。
「今日は、僕の機嫌とってよ」
「………分かった」
 じっと俺を見下ろす不二に溜息混じりに呟くと、不二はやっと微笑った。
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