324.夕闇の向こうから(不二切)
「ふっ、じ…」
 夕闇の向こうから、聞こえた声があった。
 本当に、偶然だった。その現場を目撃したのは。
 ビルの隙間から聞こえてきた熱っぽい声と、それに反して冷たい笑い声に、オレの足は止まった。
 そして。蒼い眼が、オレを捉えた。
「……っ」
 その唇が綴った言葉に、オレは逃げ出していた。
 どれくらい走ったかは分からない。足が痺れてきて、オレはやっと立ち止まった。あの時の眼が脳裏を霞め、思わず辺りを見回す。
 その気配が無いことに溜息を吐くと、オレはその場にしゃがみ込んだ。
 怖い、と思った。あの眼が。笑い声が。だがオレのそこは、思い出したことにより、更に反応していた。
 一体、どっちに?ヤられていた手塚さん?それとも…?
 ――キミも、くるかい?
「っ」
 あの眼、だ。あの眼と、唇が綴った言葉。それに今、オレは何故か反応している。
「はっ。バカバカしい」
 呟いて嘲笑ってはみたが、身体の変化は誤魔化せそうにない。
「くそっ…」
 あれから、数日。オレはずっと、あの夕方になるとあたりをふらついている。
 あの時、あのヒトが言った言葉を信じて…。
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