326.追跡(不二←ブン+切)
「だから何でオレまでっ」
「るせぇな。先輩命令だ。黙ってついて来いバカ也」
「っバカって言うな」
「しっ。気付かれるっての」
 切原の口を抑えると、丸井はそのまま建物の陰に隠れた。その前にいる人物が気づいていないことを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。
「オレ、アンタの恋路に付き合う気はないんスけど」
「何言ってんだよ。自分だって好きな癖に」
「なっ」
「ライバルにわざわざ声かけてやったんだ。オレって優しい先輩だろ?」
「………あーあー、優しいっスね。はいはい。どーも」
「心こもってねぇな」
「じゃあ、でかい声でしっかりと頭下げて言いましょうか?」
「……分かったよ」
 そんなことをしていると、目標が角を曲がろうとしていた。
「やっべ。見失っちまう」
 しっかりとその道を曲がったのを確認してから、丸井と切原は駆け出した。角の前で止まり、顔を覗かせる。僕はその顔に、思い切りでこぴんを喰らわせた。
「っ」
「て」
「……さっきから煩いよ、君たち」
 額を抑えてしゃがみ込む2人を見下ろしながら、僕は溜息混じりに言った。見上げた彼らの顔が、驚きの表情に変わる。
「ヒトの後、つけるだけでも好ましくないって言うのに。そんなに煩くされたら、無視しようたって出来ないじゃない。全く、下手なんだから」
「……えーっと」
「気付いてたよ。最初から、ね」
 言って、クスリと微笑ってみせる。すると、暫くの沈黙の後で、丸井は切原をキッと睨みつけた。
「バカ也っ、テメーのせいでバレちまったじゃねぇか」
「え?オレのせいなんスか?」
「テメー以外に誰がいるってんだよっ」
「アンタがいるじゃないっスか、アンタが」
「てめっ、先輩に向かってアンタって。何様のつもりだ」
 全く。煩いなぁ。だからバレるんだよ。
 僕そっちのけで喧嘩を始めた彼らに、僕は大きく溜息を吐いた。けど、その後で、笑い出してしまった。
「なに笑ってんだよ」
「人を見て行き成り笑うなんて失礼っスよ」
「いや、ごめんごめん。まぁ僕のことは気にせず。続きをどうぞ」
 何とか笑いを内に押し込めて、彼らに手を差し出す。すると彼らは、素直にさっきの続きを始めた。それが可笑しくて、また吹き出しそうになったけど。僕はそれを何とか内に押し込めると、煩い彼らを残し、足早にその場を去った。
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