327.悪夢(不二真) ※『246.責任』の続き
「あっ、く。やめっ……」
 また、だ。顔を左右に振りながら苦しそうにけれど熱っぽい声で呟く彼に、僕は、ぎ、と奥歯を噛み締めた。また、あの日の悪夢に魘されている。
 こういうとき、直ぐに起こしてやるべきなのだろうが、不用意に彼に触ってはいけない。叫び声を上げ僕に怯えるか、強く抱き締めてせがむかのどちらかになるからだ。どっちの行動に彼だ出たとしても、僕よりも彼の方が後に深い自己嫌悪に陥ってしまう。それだけは、避けたい。これ以上、彼に負担をかけたくない。
 でも、だからといって、このまま放っておくわけにも行かない。
「真田。真田、起きて」
 彼に触れること無く、呼びかける。囁くような声でも怒鳴るような声でもその夢に干渉してしまうから。出来るだけ普通のトーンで、けれどいつもよりも張った声で。
「んっ……は、ぁ。ふ、じ…?」
 何度目かの呼びかけで、やっと彼は目を開けた。しっかりと彼が僕を見止めたのを確認してから、その頬に触れる。そのとき、彼の体は僅かに反応したけれど。それで僕が心を痛める事は、もう無かった。これでも、大分マシになったのだから。
 初めは、不用意に触ってしまい、全身で拒絶された。激しく求められたこともあった。それを何度か繰り返した後、こうして呼びかけて起こすようになったのだが。それも最初は、視界に映った僕があの日の誰かと重なるらしく、酷く怯えられたものだ。それに比べれば、触れることに対する僅かな拒絶なんて。
 けれど、彼はそうは思ってくれていないみたいで。頬に触れたまま止まっている僕に、すまない、と呟くと、枕に顔を埋めてしまった。僕にとっては、この彼の行動の方が、痛い。
「真田。謝らないでよ。それでも一緒に居るって決めたのは僕なんだから。そんな風にされると、逆に辛いよ」
「……っすまない」
 ほら、また謝る。思ったけど。口に出すと彼はまた謝りそうだったので、僕はただ黙って彼の隣に戻ると、彼の手に触れ、指を絡めた。夢の中で逸れないように、しっかりと。
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